だから、感想書く前に、最初にいっておきます。漫画家さんはもちろん、この雑誌に関わられた方たちは、よい仕事をされた、そのように思っています。お疲れさまでした。
『純真ミラクル100%』は、モクソンのツアー終了、打ち上げやって、そして恋愛的感情にも一段落がついて、しかしちょっと不安にさせるような引きがあって、それは以前の親レーベルへのモクソン引き抜きとかの伏線が動き出すってことなんでしょうかね。それはともあれ、影の薄かった二宮さん、微妙に嫌われものですが、この人の、ただ単純に表現のしかたがあれなだけで根は悪い人じゃない、というかむしろいい人っていうところがもう読者にはわかっちゃってるから、なんか不憫というか、けれどなんか可愛いというか、彼には頑張って、モクソンにぐーっと接近しちゃったりして、そして玉砕したりしちゃって欲しい。おそらく、彼の見せ場はこの後に用意されていると思うので、期待したいと思います。
モクソンは『まんがタイムきららフォワード』に移籍です。なんか、『フォワード』が素敵なことになりそうな予感がします。
『さんぶんのいち。』、微妙な三角関係になっている柚、葵、楓の恋愛状況を描く漫画であるのですが、微妙というのは女の子葵が女の子柚にただごとではない恋心抱いているって感じで、それで妙に楓を、ああ、楓は男の子なんですが、彼のことを敵視したりしてね、で、そうしたところに昔葵をいじめていた海都が現れて、そして葵は海都に対する恐怖をいまだ拭うことができず……、という話が決着。この決着によって、状況は葵ペースに傾いて、いい感じだ。この、葵の、わりと汚ない手を使ったりするところ、とてもいいと思っていました。なんか意味不明だったり、けれど一途だったり、そういう屈折したところが、まっすぐだったり素直だったり朴訥だったりする人の心に絡みついて、そこにドラマを作るというところ、それがいいんでしょうね。
『さんぶんのいち。』も『きららフォワード』に移籍です。なんか、『フォワード』がステキなことになりそうな予感がします。
『魔法少女いすずさんフルスロットル』は番外編? 余話って書いてます。志半ばで倒れた放送部員にかわって、いすずさんたちがお昼の放送をやりましたっていう小編で、短い中にキャラクターの個性つめこんで楽しい雰囲気、いい感じでした。
いすずさんの落ち着き先はまだ決まってないみたいで、また改めてお知らせしますとのことなんですが、いったいどこでそのお知らせを受けたらいいの? まあ、公式サイトでしょうね。
『あなたにとって、わたしにとって』は仙石寛子らしさに溢れた漫画。なんか散文で語られるような、そんな雰囲気があって、朴訥とした表現は、そのまま登場人物たちの不器用な気持ちをあらわしているようで、結構好きなんですよ。コミックスも買ったんだけど、ここに書きそびれたまま今にいたる。ちょっと陰鬱といえば陰鬱、けど暗くなりすぎることもない。メランコリーが心地いい漫画で、それは今回の観覧車の話も同じで、なんだか愛おしい、そんな気持ちのわいてくるようなところが素敵です。
『恋愛ラボ』は、マキの家族が登場。姉さんが出て、そしてパパ。お前の父ちゃん ランジェリー!!! しかし娘溺愛の父が、あまりにあまりな娘の真実を知って、ショックを受けるという、しかも姉でショック、妹でさらにショック、もうパパがあわれであわれで、けどそのショックを受ける父が抱きしめたくなるほどキュート! そして希望を胸に塾を訪れたマキ、彼女は宿敵ともいえるヤンに再会、そして再び私の初めて
を奪われることとなって — !
ころげまわりそうになるほど面白かったです。取り乱すマキの可愛さ、そしてマキに目を奪われた智史にむっとするリコの可愛さ、そしてヤン! 彼はいいな。彼はいいよ。この勢いで、どんどんひどい目にあうんだろうか。ただでさえ誤解されてたのに、それどころではない状況に陥って、ヤンの明日はどっちだ!? ヤンの明日は、夏頃から『まんがタイムスペシャル』で読めるとのことです。
『あまだれ!』、完結。なんかちょっと恋愛を勘違いしてる女子、すずと、なんか彼女にふりまわされたすえに好きになっちゃったという野比くん(田中俊平)の恋愛が、不器用ながら不器用なりにとりあえずかたがついて、そしてふたりの合作同人誌が出品される同人誌即売会。クライマックスにおけるすずの大ゴマは見事でした。よかった!
『御伽楼館』。よかった。感動した。以前私は、美しい姿をしている人の本質が、自分にとって望ましいものでなかったとしたら、そのとき愛はどうなるのだろう、継続可能なのだろうか、という話をしたことがありました。『御伽楼館』、「夢見る乙女」は、あたかもその問に対する答でありました。そうなんでしょうね。愛が深まれば、その思いは姿の問題などたやすく超えていってしまうのでしょう。そもそも私の問のたてかたが間違っていたのでした。本質とは、姿かたちではなく、そのうちにあるものであり、あのとき私は本質ということばを使いながら、本質を問題にしていなかった。反省しました。深く反省しました。
『御伽楼館』、終了です。あえて完結と書かなかったのは、もしかしたらいつかどこかで再び、なんてこともありそうな気がしたからで、そうなればきっと私は嬉しく思うだろうな。期待はしません。けれど、楽しい未来を夢見ることくらいはいいんじゃないかと思います。
『凛 — COCORO-NAVI Another View』は、アダルトゲーム『こころナビ』を下敷にしたものらしく、ちょっと描かれる状況が錯綜していていまいちわかっていなかったけれど、今回できっぱりしっかりはっきりとわかって、仮想世界で出会った兄妹が、兄妹であることに気付かず恋に落ちて、そして気付いてしまって、その顛末はコミックスを待て! って、うわあ、えーっ! でも、ちょっと『こころナビ』ってゲームには興味も出てきて、まだ入手可能である模様。まだっていうのは、どうも調べてみたら2003年リリースのゲームだそうで、だからちょっとシステムは古くささ感じさせるとか、そんな話なんですが、けれどそれでも好きだという人は多いようで、やばいな、これは私も好きだっていうひとりになれそうな予感がする。どうする? どうする!? いっとくか!?
ちょっと迷ってみます。けど、この漫画でちょこっとネタバレくらっちゃってるわけだからなあ。それでも大丈夫、いっちゃえ、と自信を持っていえる人がいたら、もう一押しで買っちゃうと思います。つうか、この会社、ものすごく寡作ですけど、大丈夫なのか? あぶない、これはレーベルのファンになる危険もあります。
『片恋い迷子』は、口裂けさんの恋愛に決着がついて、しかしこの人の漫画の、異形、妖怪、なんでもいいのだけれども、人ならぬものが人と恋愛するというプロットは、自分は愛されないと思っている人の気持ちを、異形を用いることですくいあげようという試みなのでしょうか。今回の口裂けさんの話を読んで、とにかくそのように思われて、ほら、例えば、愛されない理由として、眼鏡で暗くてチビでやせっぽちで、スタイルもよくなくて、だから私は誰からも振り向いてなんてもらえないんだ、とかいうヒロインがいたとしても、世の中にはそういう女子がどストライクというようなやつもあるわけですよ。眼鏡、いいじゃないか、暗い、素敵だよ、チビでやせっぽちって、最高じゃないか! スタイル? 巨乳なんて窓から投げ捨てろ! みたいな。ところがそれがゾンビだったり、口裂け女だったり、あるいは人であっても、辻斬り血塗れ女子みたいな、とにかく、どうだこいつは愛せないだろう、みたいな極端な例をふってきて、しかしそれでも誰かがあなたを愛してくれるよ、あなたの苦しんでいることはわかるけれど、私は、僕は、そんなあなたが好きだよ、そうしたカタルシスを、愛を与える側、受ける側、双方から描こうというのがこの人の漫画なのかなって思ったのでした。
今回の話は、愛を受ける側の物語でした。このようにしか愛を描けないのだとしたら、それはなんと不器用なことだろう、そのように思うのですが、しかし不器用でもよいと思うのだからしかたがない。いろいろなんか超越しているみたいに見えた口裂けさんの、最後の最後に割り切れなかったこと。その、受け入れることを怖れているのか、意固地に突き放そうとしながら、それでも突き放し切れなかった、そうしたときのこの人は確かに美しかったな。そんな風に思いました。
『おとうとくんといっしょ。』、先月の『おねえちゃんといっしょ。』の逆バージョンですね。以前は弟視点、今回は姉視点でひとつの出来事を追って、よいですね、こういうの好きです。これはあわせて読みたいなあ。まあ、前号の『エール』を出してきたらいいんだけど、でももっと読みやすかったらいいなあ、って、誰か単行本にまとめてください。きっと喜びます。
この人は、人の気持ちを丁寧に描いて、いい。そんな作家だと思います。
『あめのち』。これは読み切り。雨女と雨男の不器用な恋物語。って、『エール』のキーワードってもしかして不器用なんだろうか。それともたまたま私の不器用センサーが過敏になってるだけ!? 松下徹子が雨女になる条件、それがために気持ちが相手に知られてしまう。こういうギミックは、話をコンパクトにまとめて展開させるにはいいと思う。けれど、それよりも気になるあんちくしょーが他の女の子を見てるような気がして、それでもやもやしてみたり、挙句のはてには思うところをぶちまけちゃったり、そのばたばたしちゃってる、そうした徹子さんが魅力的でした。
『夏のかげろう』は、ロリコンに狙われた中学生の話。ちょっと違うけど、まあ結果的にそんな感じ。気持ちが離れていく、そんな思いがして、寂しかった夏。楽しかったはずのことが、突然に色褪せてしまったように感じられた、そんな夏の終わりのできごと。離れたかと思われた気持ちはふたたび触れ合って、それは変わりゆく季節のまだ変わらずにあろうとする、そんなはざまの頃に生じる気持ちなのかも知れず、そしてその曖昧である季節の光景が胸に訴えてくるのですね。まあ、ゆっくり変わっていくのがよいよ。私にとってはとうに過ぎさってしまった季節に生きる彼女らには、そのようにいってあげたくなる。そんな話でありました。
『サトリップ』。四コマ漫画ならぬ、一ページ漫画。美術部に所属する女の子三人がヒロイン。いつもは彼女らも、それなりに頑張って描いたりしてるんだけど、今回は鉛筆を削るだけで終わって、このふわふわと地に足がついていないような感覚が好き。続かないのか。残念です。
『ひみつのはなぞの』。従姉から女の子と思われてた男の子の奮起する話。従姉は、ちょっとした事件から男そのものを怖いと思うようになっていて、可愛い男の子あきらちゃんはいかにそのハードルを越えようとするのか。その越えようとする方法が実にダイナミックで、わお、こんなに大きくしちゃうんだ。そして、そのチャレンジに対するレスポンス、意外なところから返ってきたものだから、やられたって思って、そしてちょっと感動した。いい話じゃん。ギミックも面白かったけど、残った印象は、ギミックのためだけではなかったと思います。
『赤い糸は見えているか』。これも読み切りです。これもまた不器用枠。その不器用のあらましは、気持ちの一致しそうで一致しなかったことにひっかかって、けれど実はそれでも通じているんだよっていうようなものでありました。悪くない。よかった。チャレンジを打ち負かしてしまうヒロインっていうのがいいです。それも、嫌だからとかではなく、なんかもやもやするものがある、いい加減わりきってもいいかなあって思いながら、それでもわりきらずにきたという気持ちが意地みたいになって、そしてわりきろうかなと思ったそのときに氷解するっていう、そのプロセス。いきつきもひっこみもしない、サスペンドな状態、面白かったです。
『ホーリー★ホーリー』、修道院にてかくまうこととなった王子様と、彼を助けようと奮闘するシスターの話。ちょっと荒っぽいと思うところもないではなかったけれど、しかしそれは最後には気にならなくなって、なんだかこういうところも、そして話の流れも、正統派少女漫画ってな感じではありませんか。よかった。
かくして、『コミックエール!』ともお別れ。これがしばしのお別れならよいなと、ここでも嬉しい未来を夢見ておきたいと思います。
- 『コミックエール!』Vol. 12 (『まんがタイムきららキャラット』2009年6月号増刊)
引用
- 宮原るり「恋愛ラボ」,『コミックエール!』Vol. 12 (『まんがタイムきららキャラット』2009年6月号増刊),101頁。