『あさひなぐ』は人に教えてもらった漫画。いや、twitterで話題になってたといった方が正しいかも。薙刀に打ち込む女子を描いた漫画で、その存在は書評だかなんだかで見てうっすらと知っていたのだけど、買うにはいたらなかった。というか、興味を持ちながらも出会えなかったというのが正しいだろう。ええ、出会ってたら絶対買ってたろう、そんな漫画。だって、ヒロインがすごく魅力的なんですもの。というわけで、『あさひなぐ』、夏のことですね、購入して読んでみたら、これがもう素晴しい。ヒロイン旭。この子がとにかく素晴しい。しっかり、これでもかと打ち据えられて、もうほんとまいったですよ。ほんと、素晴しいんです。
東島旭のできがわるいところがいいんです。この子、なにをやらせてもどんくさい。通学時、自動改札機にばしんとやられてしまってまごつくくらいどんくさい。中学では文化部、運動なんてろくにできないというのに、策略にはまって薙刀部見学、甘言にそそのかされて入部という、決してスマートとはいえない導入。部でも、小さく鈍そうだからと期待されてる様子がない。けど、そんな旭が頑張る。愚直といっていいほどに、真面目に頑張る、その姿が実によくてですね、気付いたら涙出そうになってる。一年生の中でも、一番できが悪い。それは本人もよくわかっていて、時にがっかりして、時に落ち込みもして、くじけそうになりながらも、けれど諦めようとしないんです。単純なんだと思う。はげまされたら、すぐその気になる。これと思ったら、そればっかりやる。やらずにはおられないのかも知れない。そんな真っ直ぐさ、それが胸を打つのですね。
読みはじめの頃、先輩のひとり、宮路真春が旭を評して、ひょっとしたらモノになるかも、なんていっていたのを真にうけて、一番運動に向いてなさそうなこの子が、実は! そんな才能の開花するような展開があるんじゃないかなんて思ったりもしたのですが、3巻まで刊行されている現在、そういった素振りはありません。天才なんかじゃない。むしろ普通よりも劣ってる。そんな人が、ひとつことに真剣に取り組み、自分自身とも向きあっていく。虚仮の一念という言葉がよく似合う、そんなヒロインが旭です。向いてないからやめちゃおう、自分にはもっと向いてるものがあるはずだから、そんな理由でもって効率よく生きようとすることの馬鹿馬鹿しさを思ってしまうくらいに魅力的な主人公に仕上がって、読めばしみじみと感じいる。ものごとはできるできないじゃないんだ。やるかやらないか、これと心を決めて打ち込む、それが素晴しいんだ。そう思わされるのでした。
しかし、いくらできが悪いといっても、いつか花開いて欲しいな。そんなことも思ってしまうんですね。それはやっぱり、旭の頑張りを見て、ほだされてしまうから。こんな子こそが報われて欲しい。そう思わないではおられないのです。あるいはそれは、普通、いやそれより劣っている自分自身を彼女に重ね合わせているから、なのでしょうね。