『雅さんちの戦闘事情』は、雑誌での連載も大団円にて無事完結し、そしてこの単行本第3巻の刊行で本当の本当に完結して、実はちょっとさみしい。はじまった当初こそは、ちょっと馴染みにくさも感じたりしたけれど、途中からは本当に楽しかった。特に、2巻くらいからの展開でしょうか、女巨人たちが出てきた頃くらいから。それまでが悪かったとは思わないけれど、私にとってはこれからが楽しくて、それはキャラクターの魅力がこれでもかと前面に出ていたためでしょう。真面目一辺倒のアングルボザ、この人を筆頭にして、個性的な面々が主人公サイドを食ってしまうくらいにクローズアップされ、活躍していました。日常の描写にあらわれる彼女らの素の姿がよかった。敵味方にわかれるはずの彼女らが、主人公たちとだんだんに交流を深め、仲良くなっていくというその過程にひかれました。そして、いつかこの敵対しながらも親しいという関係が壊れてしまうのではないか、その時のくることを怖れていました。
怖れるだなんて大げさな。けれど、あの、変に仕合せそうで、そして楽しげな関係が好きだった私には、その安定が壊れるのはいやだなと、そんな風に思われて、けれどこの漫画が、日常を描くことを中心にするのではなく、物語の結末に向かって進んでいくものである以上は、いつか決着がつけられるのだろうと納得はしていて、それがつらいものにならなかったらいいな、そんなことを思ったものでした。けれど、こうした心配はまったくの杞憂というやつで、ええ、展開しようではいくらでもシリアスにできそうな流れでありながらも、徹頭徹尾コメディタッチに終始して、面白く、楽しく、和やかな雰囲気を保ったままで終了したのですね。それも、第三勢力までもを和やかさのなかに取り込んで。こうした楽しげな展開が可能となったのは、登場人物全員がシリアスというものを放棄していた、それゆえであろうと思われて、けれどまったくシリアスな面がなかったというわけでもないのです。現われるやいなやコメディに融けていく、コメディやギャグの踏み台として利用されるような扱いではあったのだけれど、主に人間関係において現われてくる、ちょっとシリアスな表情、それが私は好きでした。具体的にいうと、3巻ではヤルンサクサの行動に伴なういろいろ。あれはよかったなあ。彼女は実にいいキャラクターであったと思います。
物語は基本的には王道。いわゆるお約束を押えたものでありました。ストーリーを持った漫画ではあるけれど、展開の妙や意外性を売りにする漫画でなく、あくまでコメディであったのですね。お約束的展開は、コメディの舞台としてよく機能していました。シチュエーションを提供し、キャラクターの個性を発揮させるための仕掛けとして働き、その結果、登場人物たちの人となりが強く意識されることとなって、そして彼女らの人となり — 、和やかさが漫画全体を支配することとなったのでしょう。それはすごく心地良いものでありました。過激で過剰なネタ(主にぱんつ)、ちょっとシビアなネタ(主に父の扱い)、そうしたものも柔軟に包み込んで、あたりを和らげていました。漫画全体がずっと親しみやすいものとなって、ああ、私はこの親しみやすさが好きだったんだ。完結した今、そのように思っています。
連載が終了したのは、ついこのあいだだというのに、ずっとずっと前のことのように感じます。そうしたことに驚きながらの単行本、おそらくは私は以前よりもずっとニュートラルな状態で読めたと思うのですが、以前いっていた内部だ外部だという話、それはもうほとんど気にならず、普通に、独立の漫画として楽しんで読んでいたと思います。楽屋ネタは楽屋で
、そんなことも書かれていましたが、リアルタイムで連載を追っていた人間だからわかる、そうした面白さがあってもいいと思います。けれど、それがリアルタイムでなくなったときに、後に読み返されるそのときに、その漫画の面白さはどうなるんだろう。古典作品なんかで、註が付けられたりする、そうやって読み解かないと楽しめないというのはちょっと残念かもな。などと思うこともあるのだけれど、今、こうして読み返された『雅さんちの戦闘事情』は充分以上に面白かった。その内部にしっかりと面白さを抱えていたと思います。
ところで、あんな人物紹介、はじめて見ました。過剰で過激。けど、それを許させるのは、この作者の持ち味、これまでの積み重ねのためであろうと思います。ああいう無茶は結構好き。それと、巻末の付録、北欧神話解説というかコメント、ああいうの大好きです。凛々しいを通りこして怖いくらいの昔アングルボザ、素敵すぎ。素敵といえば、表紙の雅花子。いい絵だなあ。かわいすぎ。本当にいい絵です。
- 鬼八頭かかし『雅さんちの戦闘事情』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
- 鬼八頭かかし『雅さんちの戦闘事情』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
- 鬼八頭かかし『雅さんちの戦闘事情』第3巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。
引用
- 鬼八頭かかし『雅さんちの戦闘事情』第3巻 (東京:芳文社,2009年),27頁。