2008年11月28日金曜日

そして僕らは家族になる

 私は荒木風羽の漫画が好きでした。私がそのようにいう時、念頭に置かれているのはなにかというと、『まんがタイムきららMAX』に連載されていた漫画『スキっ!キライっ!』であります。女の子の友情もの、ほのぼのとして、読んでいるとじんとする、そしてくすっと笑える、大好きでした。いや、今も好きだから、これが一冊にまとまるっていうんだったら、喜んで買うよ! だなんて、唐突になにをいいだすのだろうといった感じですが、本日取り上げますものは、荒木風羽の新刊、『そして僕らは家族になる』であります。小学生の女の子鈴音さんと女子高生彩子さんが突然家にやってきて、すっかり変わってしまった幸助さんの日常を描いた、女の子同居ものであります。

しかし、『スキっ!キライっ!』が終わった時はうろたえたものでした。ええっ、終わるのっ! 好きだったのに、好きだったのに、なんだかほうっておけない感じの女の子よる子と、なんだかちょっと素直になれない女の子まひるのふたりを軸に据えた女子友情もの。とりわけ私はよる子が好きで、とにもかくにも変わりもの、風貌凛々しい優等生なのに、どこか大きく欠いているところがあって、まひるも私もそこがほっとけない。天真爛漫な娘でした。そしてなにより魅力的、すごく力のあるキャラクターと思われて、もう好きで好きで仕方なかったですね。いや、よる子が眼鏡かけてるからそういってるわけじゃないよ。前髪の切り揃えが凛々しいから、そういってるわけでもないよ。こういう人好きなんだ。一見完成された人なのに、その向こうに破格を隠している。そうした思い掛けなさが、時にその表情を彩り装うことがある、それがとびきり美しくって、どきりとさせるではないですか。

といったわけで、私はあまりに『スキっ!キライっ!』が好きすぎたために、『そして僕らは家族になる』の導入で少々後れを取ったのでした。二十歳フリーターの幸助さんちに、ある日、ある朝ふたりの美少女がやってきた。それが彩子さんと鈴音さんだ。って、なんだこのテクニカルすぎる設定は! なんというギャルゲー って、ほんまやで。申し訳ないけど、軽くひきました。こういうのがお好きでしょう? って、そういうメッセージを勝手に読み取って、餌を与えれば簡単に食いつくと思ったら大間違いなんだからねっ! なんて突っ張ったりもしたけれど、今では大好きです。

馴染むのに時間がかかったのは、登場人物の多さ、幸助、彩子、鈴音の三人を軸にしての広がり、幸助のバイト先に二人、彩子の学校にまた二人、そうした人間関係の整理、把握に手間取ったから、だと思いたい。とはいえ、そんなに突拍子もない人間関係ではないから、ほどなく浸透して、楽しく読めるようになりました。いや、実際の話、とりあえず明らかになっている部分においては、そんな無茶な! と思うようなことは意外になくて、最初に大きくドーンとぶちかましておいて、だんだんに落ち着いていったというような印象であるのですね。あ、苗さんは相変わらず落ち着きないですよ。でもそれがいいというか、あの人可愛いな、と思ったのは今月の『MAX』読んでですが、いや、眼鏡かけてるからそういってるわけじゃないよ、よくある展開、べたなネタを予感させて、常識的な範疇に展開をとどめるというやり口にしてやられました。そしてよくよく考えれば、そのやり方は『そして僕らは家族になる』に通底していたと思います。ギャルゲー展開!? と思わせて、意外とそうではなかったり、もしかして不幸な娘!? と思わせてそこまではなかったり。突飛にみせて、意外に普通。面白い裏切り方だと思います。そして、その普通に落ち着いていく感じ、唐突から日常へ、その感触の移り変わっていく感じがよいと思わせるのだ、そのように感じています。

唐突から日常へ、その感触は、タイトルの告げる『そして僕らは家族になる』、そうしたテーマを裏打ちするものであるのかも知れません。最初は友達でなかった、けれど今では大切な友達になっている。そんなことがあるように、最初は知らぬ間柄、まったくの他人だった人が、だんだんに大きな位置を占めるようになっていく。そしていつかかけがえのない人になるのでしょうね。ともに暮らす中で、変化していく間柄。もしかしたら、思いもかけない大ネタが仕込まれているのかも知れないけれど、仮にそれがあろうとなかろうと、家族でない人が家族のあり方を模索して、ひとつの家族となっていく、そういうプロセスをこれからしんしんと感じさせてくれるのかもなあ、そんな予感をさせるのです。

さて、この漫画に出てくる人たち、とりわけ女の子たちには、どこかほうっておけない、そう思わせるものが確かにあって、実に目が離せないのであります。彼女らの抱える危うさ、そこには実の家族との関係に根ざしたものもちらほらとして、これは家族でない人が集まり家族を作ろうという、その構図に対照されるものであるのかも知れませんね。血が繋がっているから、すなわち家族かといえばそうとも言い切れない。そんなことを思わせる、ちょっと考えさせられる漫画であります。そしてこうしたところに心は引っかかり、いつしか寄り添うようになって、気付けば好きになってるんですね。ええ、私、この漫画が大好きです。何度だっていえる、この漫画が、この漫画に登場する人たちが、私は好きです。

引用

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