私の好きだったアニメに『ヤダモン』があります。NHKの帯アニメ、放送時間は10分。放送されていたのは、平成がまだ一桁だった頃でした。調べてみれば1992年から1993年にかけて、もう十年以上前のことになるのですね。思い返せば、あの頃が一番アニメにのめり込んでいた時期であったと思います。新番組はとりあえずビデオに録る、そうした習性が確立したのは、確かにあの頃でした。でも『ヤダモン』はまったくのノーチェック。NHKの番宣で見た時も、緑の髪が蝶の羽のようにひらめいているヤダモンに、変なの、面白そうじゃないな、黙殺といっていいくらいの切り捨てようでした。でも、この判断を後に悔いる日がきます。
たまたま暇だったんだと思います。夕刻、なんとなしに見たNHK、そこでやっていたのが『ヤダモン』でした。はじめて見たのは「時の妖精タイモン」、二週目のタイトルですね、そのNo. 2だったと思う、を見て、これは面白いじゃないか! 一瞬で落ちました。そして後悔しました。なぜ私は、あの番宣を見た時に、これを見ないと決めたのだろう。実際に見て判断するのではなく、思い込みで決めつけたのだろう。ああ、偏見は人生を貧しくさせる! それはそれは後悔して、けれど一年経てば再放送されるだろう、だってNHKなんだもの。かくして、私の『ヤダモン』録画の苦行が始まります。だってさ、毎日あるんだもの。本当、全話録画するのは大変でした。
あんまりにショックが大きかったとでもいうのでしょうか。『ヤダモン』に関係する本、CDを買いはじめると決めたのもこの時だったのだと思います。けど、いかんせん私はいつも情報が遅い。サントラCDを予約して買えば、ポスターがついてくる。でも、私はそれを知らなかった。だから、私はポスターを持っていません。あれは悔しかったですね。あまりに悔しかったものだから、情報を収集すべく、徳間書店の雑誌『アニメージュ』を買いはじめたのでした。そう、テレビを見て、ちょろっとサントラでも買って満足しているだけだった私が、一気に深みにはまることになったのです。とはいえ、さすがにビデオはよう買えなかったなあ。あの頃は、ほんと、貧乏でした。今も変わらないといえば変わりませんが……。
漫画『ヤダモン』は、『アニメージュ』に連載されていたのですね。だから、『アニメージュ』を買えば『ヤダモン』に関する情報は網羅される、そう判断したのです。それはあながち間違いではなく、サントラを買い、主題歌シングルを買い、フィルムコミックを買い、小説も買い、漫画の単行本も買い、ロマンアルバムも買いました。ええ、本当にはまっていたのですね。
はじめて買った『アニメージュ』。そこに載っていたのは、第2話でしたね。こっちでも乗り遅れてるんですよ。だから、単行本になるのを心待ちにしていました。これは再放送を期待する心理と似ていますね。こちらも第2話はタイモンがやってくる回で、子供向けのアニメだから全体に(序盤だけは)マイルドだったTVシリーズと違い、明らかにアニメ専門誌買うようなマニアに向けられた漫画版はちょっと異質で、けれど私はこの漫画版も結構好きでした。TVシリーズのヤダモンがみせないような表情がある。んお? とかの表現はちょっとしたお気に入りでした。そして、ちょっと悪乗りしたようなギャグ、パチモンとかバッタモンとか、そのへんはちょっと微妙なんだけれど、特にバッタモン、タイモンの偽物なんですが、これは当時売られていたタイモンのぬいぐるみを揶揄していまして、けど今じゃもうわかる人も少ないだろうなあ。そういう、物語世界の範疇を逸脱するようなギャグをどう思うか、それは非常に微妙なんだけれど、でもおおむね私は好きでした。アニメ版とは違ったストーリー、違ったラスト、違ったキラの抱えていた問題、それは当時刊行されたもので全2巻、今回のなら全1巻で語れるくらいの大きさに整えられていて、ちょっとこじんまりとしたものであったけれど(というか、アニメ版が大きすぎた)、あのラストの残す印象はしんみりとさせるものがあって、気に入っています。
今、この漫画を手にしようという人は、多かれ少なかれアニメ『ヤダモン』を知っている人、それも好きだった人であるのではないかと思います。そうした人が、『ヤダモン』の放送されていた当時、また違ったテイストで語られていた『ヤダモン』を知ることができるようになって、これを望んでいた人には本当によかったと思います。また私のような、すでに知っている人間でも、また再び思い起こすことができて、そうしたこともまたよかったと思っています。
いやね、最初この本が出ると知った時、買おうかどうか迷ったんですが、書店で現物を見ればもうたまらなくなってですね、ああ自分は本当に『ヤダモン』が好きだったんだなって思ったのでありますよ。
- SUEZEN『ヤダモン』(CR COMICS) 東京:ジャイブ,2008年。
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