2008年11月13日木曜日

なきむしステップ

 『まんがタイムきららフォワード』というのはなんだか不思議な雑誌で、チョイエロエロコメが人気であるかと思えば、少女誌に載っていてもおかしくないような漫画もあって、はたしてこの雑誌の購読層とはどういうものであるのか、創刊から見ている私からがわからないというそんなありさまです。さて、今日取り上げた『なきむしステップ』は、その後者の系列、少女誌に載っていてもおかしくなさそうな漫画であります。泣き虫な女の子、奈々ちゃんが、人付き合いが苦手で引っ込み思案というその性格を克服して、思い人杉原君との関係を深めていくという漫画。ほら、先達て『ひだまりスケッチアンソロジーコミック』で書いた時に、うさぎの漫画といっていた、それが『なきむしステップ』です。

なんでうさぎの漫画なのかといいますとね、奈々ちゃんと杉原君はうさぎを飼っている、そのうさぎが実にいいキャラクターを演じているのですよ。奈々ちゃんの飼ってるうさぎは、ちょっぴり勝ち気なねねちゃん。つり上がり半月目のうさぎ姿もキュートですが、擬人化高ビーお嬢さんのねねもまた素晴らしい。杉原君の飼っているうさぎは、ちょっと気弱であかんたれっぽいシロクロ。奈々ちゃん杉原君の恋は、うさぎが取り持つどころか、まさにうさぎに後押しされて始まる恋とでもいったほうがそれっぽい。うさぎという、二人の関係に直接的に干渉できる立場でないものが、非常に大きな役割を担う、そうした物語の組立もなかなかに面白いのです。

そして、やっぱり主人公たちがいいんだろうなと思うのですね。通しで読んでみて思うのは、タイトルにそうあるように、泣き虫の奈々ちゃんがいかに勇気を振り絞って、苦手なこともの、苦境から逃げず、乗り越えていくかという、そういう物語。そこには自分への気付きがあり、成長があります。自分を取り巻く環境、社会、そして人たちとの関係を、自分も変わることにより、少しずつ変化させていく。まさに伸びる若草のようではないですか。そして私は、変化し、伸びていこうとする、そうしたものを見るのが好きなんです。だから、私はこの漫画が始まって、その物語の前へ前へと進む様に目を奪われてきました。そして、それは第1巻に収録された最後のエピソード、第7話「みんなでステップ」で完全に好きになった、そんな風に感じるのですね。

いや、ちょっとネタバレなのであれなんだけど、作者がカバー下裏表紙にて曰く、第6話で奈々ちゃんが嫌われるのではないかという話。いやさ、私は第6話読んで、杉原酷いな! つうか、駄目だろこれって、思ったのですよ。うん、奈々ちゃん悪くないよ!! つうか第6話は、なんで奈々ちゃんばっかりが心を砕いているのだろう、砕かなければならないのだろう、そうしたところに同情するやら反省(?)するやら、いやもう第6話で奈々ちゃんが悪いと思ったのはおそらくは作者さんだけじゃないのかなと思いますです、はい。

そして、この回があるから、第7話が光るとそう思って、まるで自分の外に広がる世界だけが輝いていると思ってきた、自分を中心にまるで世界を遠巻きにうらやんできたかのような奈々ちゃんが、ついに世界に向かって踏み出したなと、そうした描写が奈々ちゃんの成長を本当に実感させてよかった。一回り大きくなって、ものごとに対等に向き合えるようになってこそ気付けるものがあって、そしてこれまで自分の中に押し込められてきた感情が解放されて、奈々ちゃんはずっと魅力的になった、そう思います。

しかし、よくよく考えれば、勇気を出してきたのはいつも奈々ちゃんのような気がして、ええと、杉原君負けてるぞ!

  • カザマアヤミ『なきむしステップ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2008年。

引用

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