『荒野の蒸気娘』、最終巻の刊行は5月のことでありましたか。日々のごたごたに紛れてしまって、ついつい今まで積み置かれてしまっていたものの、ふと思い出して、読みました。そして、感想はというと、ちょっと微妙だったかも知れません。外燃機関で動く巨大なロボット、アリスは自分の正体が可憐な娘だと思っている。同行する姉、アンも同様。でも、アンは明らかにそれがアリスの妄想、マイルドにいえば思い込みだということを知っていて、しかし真実をあからさまに突きつけるとアリスが傷つくだろうこともわかっているから、周囲にその妄想を押し付ける。押し付けられるのは、主人公ジョーから、たまたま出会った善意の人から、敵、さらには読者まで多岐にわたり、そしてこの漫画の面白さの肝は、この妄想の押し付けにあったのでありました。
そして、それとは別に物語の後ろに匂わされていた要素があって、それはなにかというと夢の新動力炉であります。アリスに積まれた謎の機関、はたしてそれはなんなのか。それが4巻ラストまで、ずっと、じっくり引き伸ばされて、その真相はここで書くことはしませんが、それはやっぱりあさりよしとおらしいというか、ひねった、あるいはうまくかわしつつ、あり得る真相を持ってきて、それは確かに私にとっては意外な、なるほどそうなのかと思わせるに足るものでありました。
じゃあ、なにが微妙だなんていうのか。それは結局はカタルシスが得られたかどうかであると思うのですね。アリスをつけ狙う謎の組織、それはどうも大掛かりなものらしい、それを匂わせて、意外とこじんまりと終わらせたな、そんな印象なのです。だから、ストーリーの盛り上がりを期待するべきではない。機械の体を与えられた美少女、ええと、心は間違いなく美少女なんだよ、アリスという存在に感情移入して読んだ人なら、満足できるラストだったかも知れません。いや、でもジョーの、おにいちゃんの気持ちが収斂していく様、そこはもう一味欲しかったかな、そんな気もします。どっぷりと移入して読むにはどうしてもギャグ、素に引き戻される瞬間、そのギャップが足を引きますが、でも、それでも最後の流れ、王道だとは思うんですよ、でもそこには期待を受けて見事みせてやろうという意気が感じられて、ちょっと感動したのは内緒です。
あさりよしとおという人を評価するには、私はまだまだ理解も及ばないし、それこそ不遜であると思いますが、それでもあえていうとすれば、あの人はどこか斜に構えている、真っ向から感動を描こうとすることにテレがあるんじゃないかな、そんな風に思うことがあって、それは『荒野の蒸気娘』においてより強く感じられたように思います。でも私はそんなあさりよしとおの作風を嫌いじゃないと思う、むしろそこが気に入ってるんだと思います。
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