2008年5月1日木曜日

くろがねカチューシャ

 単行本読み終わって、人物紹介見るまでまったく気付いていなかったんですが、この漫画、四人そろって花鳥風月だったんですね。それはさておき、『くろがねカチューシャ』は『まんがタイムきららフォワード』で連載中のメイド漫画であります。あるのですが、あんまメイドだからどうこうってことはない漫画で、だってメイド喫茶が舞台だというのにすでに喫茶分はなし、メイドってのもそんなに重要でなくなってる感じだものなあ。ヒロインは、メイドに憧れて上京してきた羽鳥トキ。彼女は働くことになったメイド喫茶轟で世界初のメイドロボ試作機、ハナと出会うのですが、ここでいわゆる萌えなアンドロイドを期待してはいけないというのがミソ、というかいわゆる出落ちってやつ? 実にあんまりな感じでメイド喫茶のお約束をぶち壊して、じゃあかわりになにがくるのかというと、吉谷やしよらしいどたばたのコメディであります。

いったいなにがらしいであるというのでしょう。

セクハラマシン、ハナに対し決して打ち負けないヒロインがそうであるかも知れません。はじまった当初はセクハラを繰り返すハナにトキが釘バットで応酬というパターンを見せてはいたものの、圧倒的にトキが被害者の立場にあったというのに、気付けば割と対等にやり合うまでにいたっているという不思議。ああ、成長したんだ — 。って、メイドや人としての成長ではなく、バイオレンス方面での成長というのはどうなんでしょうって感じですが、こうした期待されるお約束を台無しな方向に裏切るというのもまたらしさであると思うのです。

漫画といわず映画といわず、すっかりできあがってしまったパターンというのが存在します。よくいえば王道、悪くいえば馬鹿のひとつ覚えでありますが、期待されるパターンに則って作り上げられた形式に、それこそ私なんかはパブロフの犬みたいに反応し、泣いたり笑ったり胸をつまらせたりして — 、けれど吉谷やしよはそうしたパターンをうまく使って、最後に台無しにするというのがうまいのですね。あるいはそれもお約束といえるのかも知れないけれど、約束と裏切りの引きあうバランスをうまく調整し、どたばたとした空騒ぎをよく盛り上げた最後に、脱力のラストを持ってくる。なんだかちょっといい話も、全力の馬鹿話も、なにもかもが軽さの中に精算されて、笑いとともに消えていきます。こうした切れ、離れのよさこそがギャグ漫画の身上であるとすれば、『くろがねカチューシャ』はよくできたギャグ漫画であるといって差し支えないでしょう。

無駄に大げさで、無駄に大騒ぎで、無駄に暴力的な漫画でありますが、その無駄の誇大であることが面白いというのも、やはり吉谷やしよのらしさなのでしょう。本来なら爆発や銃器、バイオレンスの介入するはずもないメイドものであるのに、むしろメイドよりもそうした大立ち回りこそがメインになっているというのがおかしくて、しかもその方がよりうまくまわっているというのも面白い。そしてそれらどたばたを軽さの中に消し去ったあとに残るものがあると感じられる — 。その残るもの、なんのかんのいって楽しそうな彼女らの関係、笑顔の印象といったらいいのかね、それがよいなあ、そんなことを思うのでした。

  • 吉谷やしよ『くろがねカチューシャ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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