2008年5月23日金曜日

山原バンバン

がんばろ・まい!』で名古屋ファンになり、『トリコロ』、『ぴっぴら帳』の合わせ技で広島ファンになり、北海道は『動物のお医者さん』だなあ、きっと。その土地の魅力を伝える漫画に触れれば、あっという間に感化されて、そこのファンになってしまう。私というのはどうもそういう人間で、言葉やら文化、風物に接近したいという気持ちがわーっと盛り上がってしまうんですね。そんな私が沖縄に興味を持ったことがありました。それもやっぱり漫画のせいで、それは『山原バンバン』という沖縄コミック。しかし、この漫画に出会ったというのは、本当に縁でありました。

以前私の勤めていた図書館は事務所の棚に、なんとなく置かれていた漫画、それが『山原バンバン』でした。聞いたことのない出版社の聞いたことのない作者。中を見ればなんとなくのんびりどころか、すごくゆったりとした時間の感じられる漫画で、だってヒロインが女子高生でそれも結構やんちゃな娘だというのに、ちっともがちゃがちゃしてないっていうのは、沖縄は山原という土地の持つ雰囲気なんでしょうね。描かれた時期は1990年代の初頭。もう平成に入っているんですが、なんかそんな感じはなくて、じゃあ昭和かというと私の知っている昭和ともまた違う感じで、それは山原の時間なのかなあ。なんか穏やかでね、引きつけられるところがあったんサー。

私がこの本にであった時期は、大学を出ているわけだから、1999年以降であることは間違いなく、多分2000年くらい。最初、排架しないんだったらもらっちゃおうと思っていたんですが、思い直して整理して排架してしまいました。だってやっぱり読んでもらいたいですから。かわりに、出入りの書店外商さんにお願いして、一冊自分用を取り寄せてもらいました。

2000年頃にはちょっとした沖縄ブームがあったんでしたっけ。それとも私の周辺だけ? バンドブームの残照がまだあったのかな、沖縄バンドの影響でか、三線やってるのが何人かいたっけかなあ。そんな状況だったので、この漫画を読んでくれた人はそこそこあって、感想きいたら、やっぱりもともと好きな連中だからかね、評判よくって嬉しかったです。しかしやつらがあんなに沖縄にはまってたんはなんでだったんだろう。聞いたこともあるかと思うのですが、これといった理由はないようで、いやあ、なんかよくわかんないんですけど、いいんですよー、そんな返事が返ってきて、ほんと、ちっともわかりません。

でもこの漫画を見れば、わからないながらもなんとなくわかるようにも思われて、それは今の自分たちが暮らす土地にはないものがあったからだったんじゃないかなと思うんですね。せかせかとした日常、なんとなく型にはまったような生活に対し、沖縄はまったく違った時間の流れ方、あり方をしていると感じられた。すなわち一種のユートピアの幻想を沖縄に見たのかも知れませんね。『山原バンバン』に描かれる沖縄、山原の暮しや自然を見れば、こういう暮しもあるんだなあ。今自分が必死にしがみつこうとしている現実だけが真実ではないんだと気付かされる思いがして、そうしたら凝り固まった気持ちに少し余裕もできる、そんな効能のある漫画であるのですね。

でも、もちろん、そこが生活の場になればなんと思うかはわかりませんよ。そうしたことはわきまえたうえで、異郷に暮らすということを夢見ることがある。そしてそうした夢のきっかけは、私にとっては漫画であることが多いのだと、そういう話でありました。

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