『PEACH!!』は『まんがタイム』の巻末に連載されている漫画、すなわち大トリを飾っているというわけなのですが、これが実に面白くてよいのです。東北のひなびた温泉旅館を舞台としていて、旅館桃の湯では女子高生女将がお出迎え、なんてこといっているくせに、旅館業を取り仕切る細腕繁盛記といった風よりも、もっとこうなんというか、ナンセンスな味わいが利いた逸品、読めば笑わずにはおられない、そんな感じであるんです。第一、設定からがナンセンスです。桃の湯は私立聖愛学園の温泉部がやっている旅館。つまり従業員みんな女子高生、ってのはまあいいとして、部活動ってどうなんだ。描かれることは少ないけれど、女将広能をはじめとする従業員、というか部員は、日中は学校に通っていて、部活すなわち旅館は平日の早朝放課後だけらしい……。
そんなあり得ない設定を作っておきながら、なんの問題もなく旅館は営業されていて、そうしたところもナンセンスです。ヒロインは多分広能、ツインテールのかわいい娘なんですが、女将(部長?)であり板前でもあるという、まさしく桃の湯の屋台骨であります。欠点といえば、うんちくしゃべらすと止まらないことと、打たれ弱いところかね。あと、停学が多いってところか。こうしたうんちくや打たれ弱さ、それから停学なんかはシリーズになっていて、集中的に展開されたり、あるいは思い出した頃に出てきたりしましてね、こちらは心待ちにして読んでますから、出てきたらそれだけでうれしくなってくる、笑う準備もすっかりできているという具合です。そもそもあれらネタは、そうした準備なしでも充分に面白い、単体で勝負して笑いをとれるネタだと思うんです。だからなおさら贅沢。派手さでみせるのではなく、こなれたネタでくすぐりを入れるのが実にうまい、ベテランらしい安定感も魅力であろうかと思います。
こうした定番ネタを持っているのは広能だけではなく、美人仲居武田や常連客岩井なんかも同様で、最近は岩井の後輩相原なんかも活躍しつつあるけど、第1巻の時点では広能、武田、岩井を押さえておけば充分でしょう。というわけで、巻頭の人物紹介にはこの三人だけが載っていて、つうかイラストに名前しか描いてないというのもすごいな。このシンプルな紹介の仕方は、桃の湯が温泉旅館でかつ部活動という情報が提示された時点で、彼女らの役割が完璧に説明されるからなのでしょう。つまり旅館の側の人間は、制服によって女子高生であることが示され、羽織っている法被で旅館で働いていることが充分に知らされるわけです。客なら浴衣ですね。こうした特徴的な小道具で、キャラクターの立ち位置を表現しているから、細々とした説明はいらんわけです。おかげで、少ない時で4ページしかない連載でも、充分に内容を伝えることが可能。一見さんにもナンセンスな旅館コメディは楽しめるし、常連ともなれば、もう彼女らの人となりは充分わかってるわけですから、それ以上の面白さに触れることができる。
ええ、これは実にいい漫画だと思います。シンプルにして味わい深い、目立たぬところに手がかかっている、そんな感じの漫画であります。
- 川島よしお『PEACH!!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
- 以下続刊
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