うおなてれぴんの単行本が出てるよ、って風の噂に教えていただきまして、そ、それはやっぱり買うしかっ! と思って買ってきました。新作と思っていたら、2004年から2006年にかけて連載されていた漫画で、危なくお蔵入りしそうだったところを単行本化されたってところなのでしょうか。いや、だとすればよかった。思わず表紙に引かれて買った『しすこれ』以来、妙にこの人のことは嫌いじゃない感じで、そうしたら購読している四コマ誌にいらっしゃって、変わらぬ芸風になんか嬉しくなったりしたわけですが、いつか単行本が出たら嬉しいなあなんて思っていたら、私の知らなかった漫画が単行本化されました。タイトルは『魔法使いしかっ!!』。魔力の源である星のかけらを巡って繰り広げられる、魔法少女たちの戦いの模様を描いた漫画です。
地上三十階書店にいけば、結構な冊数が入荷していて、平積み。やあこれは嬉しいと手に取って、しかしこの表紙の醸す雰囲気はなんだか意外な感じでありました。ぱりっとメリハリの利いてキャッチーな、なんかすごく普通の漫画っぽいのですよ。こんなことをいうと『しすこれ』や『まん研』が普通じゃないみたいですが、もちろんそんなことをいいたいわけではなくて、ある種のフェティシズム的傾きのある作風が、見事なまでに隠蔽されていて、もしかしたら中身もそうなのか!? とわくわくしながら開いたら、やっぱり作風は変わらずでありました。がっかりはしていない!
この人の作風っていったらなんなんだろう。すごくマイペースと感じられるところ。コスプレ色が強いところ。裸とかそれに近い状況が、結構な割合で出てくるんだけど、なんでかあんまりエロくないところ。これらがごちゃっと混ざり合って、独特のゆったりとしたテンションを出しているところ、なんだと思います。その、ゆったりのんびりのテンション、多分私はそれが好きなんだと思うんです。登場人物みんなが割合に好き勝手しているせいもあって、あんまり話がきりきり前に進まない。停滞気味の面白さ。けどそんなでもしっかり話は展開していくという不思議。実際、『魔法使いしかっ!!』もそんな感じでした。星のかけら争奪戦、ヒロインみうの持つ星のかけらを狙ってくるライバルたちを倒し、星のかけらゲットだぜ! 時にシリアスな表情を見せつつも、マイペースな突っ込みはかかさないから、緊張と弛緩の振れが交互に訪れて — 、いやどちらかといえば弛緩寄りかも。でも魔法少女たちの対決は面白かった。なんだかよくわからないのりで勝つという、脱力落ちとでもいったらいいの? そういうのもあったけど、策略巡らせているものも多くって、しっかりしてる! 結構な満足感の得られる、いい漫画だったと思います。
けど、やっぱりこの人の作風は健在だから、ええと、マイペースの方じゃなくて、コスプレの方。魔法少女戦のルールは、負けるとその人の考える恥ずかしい姿になるというものだから、裸になったりコスプレになったり、けどなかには切なくなるようなものもあって、なんか妙に襟を正すような思いになったんだけど、結局ハッピーな方向に向かうのがこの人のいいところだと思います。そういえば、この漫画、勝っても負けても、特に仕合せになるでなく、ましてや不幸になるでなく、皆で楽しく魔法少女戦を戦い抜きましたっていうあっけらかんとした明るさが最後に残ったのはさすがだなあ。
いつもながらの持ち味崩さず、盛り上がりもあり、後味はすっきりとして晴れやか。その朗らかさがいいじゃありませんか。明るく倒錯。大変よかったと思います。
- うおなてれぴん『魔法使いしかっ!!』(バーズコミックス) 東京:幻冬舎コミックス,2007年。