2007年11月11日日曜日

FRONT MISSION ― THE DRIVE

 FRONT MISSION DOG LIFE & DOG STYLE』が思いのほかに面白かったものだから、前作というべきか関連作といったほうがいいのか、『FRONT MISSION ― THE DRIVE』も読んでみたのでした。作者は『DOG LIFE & DOG STYLE』に同じく太田垣康男で、ただ作画が違います。とはいっても、あまり気になるものではありませんでした。両者ともに緻密にしっかりと描くタイプの画風だから場の雰囲気をよく伝えて、ただ違うとすれば、『THE DRIVE』の方が多少泥臭さを感じさせていたかなと。いや、これは欠点といってるのではなくて、この漫画においてはむしろ武器であったと思っています。密林における少人数でのゲリラ戦、自分のための場を組み立て、ヒーロー然と活躍して見せる暁隊長の重厚さがよく表現されていたと思います。

『DOG LIFE & DOG STYLE』はゲーム『フロントミッション』の舞台を膨らませながら、社会情勢ひいては戦争という現実に関わらざるを得なかった人間を描こうとするかのような、そういう感触がありましたが、だとすれば『THE DRIVE』はまったくもって逆であるといっていいのではないかと思います。確かに『THE DRIVE』においても、ハフマン島入植の風景であるなど、FM世界を広げる想像の豊かさは見られますが、けれどフォーカスはそこには当たっておらず、そう、フレームの中心には遊撃部隊を率いる男一匹暁隊長がどしんと立っているのです。戦争のリアルさよりも、戦闘において圧倒的な強さを発揮するヒーローものとしての爽快さが持ち味。すべては男暁の強さを見せつけるために用意されているかのようであります。

例えば、冒頭、敵歩行戦車(クリントン型?)に単騎絶望的な戦いを強いられている兵士の描写などがそうで、狭いコクピットの中、吐瀉物排泄物にまみれながら戦うという、人間の泥臭さ、極限に追いやられれば格好良さや華麗さなんてはぎ取られてしまう — 、そしてこれが前線の現実なんだぜといいたげなる一連のシーケンスの後に、我らが暁愚連隊の登場です。これが、とんでもなく強い。圧倒的といっていい強烈な強さを見せつけて、彼らの戦場には件の兵士がまみれた現実の泥臭さなど微塵も関係しないのだと告げるかのような幕開け。そう、オープニングの時点で、この漫画はファンタジーであると明確にされるのです。読者は、彼のために用意された舞台にて、華麗に、果敢に、過激に戦う暁の雄姿を見て喝采を送ればいい。そして、このヒロイックな戦闘の様というのは、『フロントミッション』というゲームの一種側面であるのです。

以前、いっていたことですが、FMではキャラクターが育ちすぎるのですよ。突出して育ったパイロット、彼彼女を戦場に投入すれば、面白いように敵は片づいて、まさしく彼らのための舞台といえる、そういう場が出現するのです。下位中位のパイロットが苦戦している現場に駆けつけては、華麗に敵を屠っていく。か、かっこいい! たとえ敵に取り囲まれたとて、返り討ちにしてやる、かかってこい! てな、そんな感じ。だから、暁隊長の強さはあり。というか、まさしくFMの戦場というにふさわしい活躍で、おっさん、やり過ぎ、とは思うけど、それが許されるのがFMなんだもの。素直に、かっこいいわといってしまいます。

FMは多様な武器が用意されていますが、いまいちそのメリットがわからないショットガンや火炎放射器、そういった武器の見せ場が用意されてるのがまた面白かったと思います。私はそのビジュアルの面白さを味わうために、必ず火炎放射器装備のバンツァーを用意するようにしていますが、だからなおさら味わい深かった。一巻もので、ちょっと短かった嫌いもあるけれど、逆に全速で走りきれたということもあろうから、『THE DRIVE』はこれでよかったのだと思います。むしろ、彼らの活躍をもっと見たいなあと思った、その一点でこの漫画の面白かったことを伝えられればと思います。

  • 太田垣康男『FRONT MISSION ― THE DRIVE』studio SEED作画 (ヤングガンガンコミックス) 東京:スクウェア・エニックス,2007年。

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