2007年2月17日土曜日

ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド

  地上三十階の書店では二ヶ所で平積み、他の書店でも結構押されているタイトルで気になっていたのですが、なにが困るといっても、タイトルから中身がどうにも推し量れなくて、それで買うのが遅れました。とりあえずヴァンパイアもの、怪奇ものだろうとは思ったのですが、バンドとついているものですから、ええーっ、これって音楽もの!? 一瞬クラウザーさんを思い出して、いや、違う違う、bandじゃない。表紙にちゃんとbundって書いてあります。じゃあ、これは一体どういう漫画かというと、ヴァンパイアたちが大挙して日本に設けられた租借地に移住してくるという話。構成はシンプルだけど結構読ませる、あたりと思える漫画でした。

この漫画読んでてなにが心地いいかというと、そのもっともらしさですよ。ヴァンパイアなどといった西洋妖怪が日本に大挙移り住んでくるというその設定、ちょっと聞いただけではあまりに非現実的、ありきたりと感じるところではありますが、ところがどっこい、それが実にしっくりとはまっていていい感じだからたいしたものです。そもそもなぜ日本国がヴァンパイアに租借を許すにいたったか、その理由をはじめとする端々にリアリティ — それっぽさがうまくちりばめられているから、漫画全体のありそう感も非常に高くなっています。しかし一番私が感心したのは、細かく説明しようとすればぼろも出そうなところをすべて、人知の及ばぬところに押しやっているところです。説明可能なところはなるたけシンプルに骨太に語り、ややこしくなりそうなところは怪奇神秘のベールで隠してしまう。うまい! 其方ら人間風情が我らヴァンパイアのすべてを伺い知れるなどとは努々思わぬことじゃ、分をわきまえるがよい、とでもいいたげな様子が痛快。ほんと、うまいです。やってくれます。

話の運びもなかなかのものです。数回単位でくくれる小エピソードを単位とするクライマックスと解決があり、これら小エピソード群をまとめる大きな流れがその背後に用意されています。小エピソードは結構シンプルに語られるものだから、登場人物の動機もうかがいやすくぶれも少なくなって、わかりやすく読みやすい、おいてけぼりになるということがないから安心して読み進むことができます。そして、これらエピソードは別のエピソードとかかわりを持つことで、より大きなストーリーを感じさせるから、小ぶりであるとか物足りなさであるとかは感じない。1巻2巻に収録されたもろもろの事件はそれぞれ趣を違えているけれど、このすべてが繋がりひとつになることで序章を構成しているといえば、その感覚を表現できるかな。気張りすぎず、けれど軽すぎるということもないという、そのバランス感覚がよくこの漫画世界を支えていて、非常にいい感じであると思っています。

ただ、気になるところ一点。ネタバレになるから、未読の人は気をつけよう。

心が全てを支配するヴァンパイアは、誰もがその本性に見合った真の姿を持っているとのことですが、それで姫さまの真の姿があれだったというのをはたしてどう受け取ればいいのか、ちょっと現在保留中です。由紀曰くきれい……であるその姿が、姫の善性や高潔さを表しているというのなら、ちょっとがっかりかも。けれど、一見そのように思わせながら、まったく違った内面を表現するものだとしたら、してやられたー、って感じに私は喜びそうです。

そうした多義性、多面性、多様性を持つがためにあれが選ばれているのだとすれば、私はすでに作者の術中にはまっています。そうだったらいいなあ。

蛇足

ツェペッシュやメディチといういかにもな名前があって、どうにもこうにも期待したものだから、デルマイユで検索してみたんです。そしたらガンダムばっかり出てきてびっくりだ! もしかしたらボルジャーニもガンダム由来? ボルジア家あたりを思い浮かべたんだけど、どうなんだろう。でも、このへんは多分語られることないでしょうね。

引用

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