昔、サクソフォンを吹いていた私が今はギターを弾いている。この転向にいろいろ理由はあるのですが、どうもそうした理由を手繰っていくとエリック・クラプトンにまでさかのぼることができるのではないかなあと、そんな風に思っています。そもそも私は最初は自分の歌を伴奏できる楽器(ピアノのようなんじゃなくて、持ち運べるやつで!)をやりたいと思っていただけで、ギターと決めていたわけではないのです。ですが巷ではギターがブームで、ブームであるがゆえに私はギターに背を向けて中国の楽器琵琶(ピパと読みます)をやりたいと思ったんですが、結局は環境の充実しているギターに落ち着いたとそういう経緯があります。で、その環境の充実の理由というのは、MTVで放送されたエリック・クラプトンの番組、『アンプラグド』が大当たりしたために引き起こされた世界的なアコースティックブームに由来しているようなのです。
きっと業界は諸手を上げて歓迎したのでしょうね。話に聞けば、エレキがブームになって以来、アコースティック楽器業界は低迷していたという話で、あの老舗マーチンでさえエレキに手を出したとか、そういう話も聞いています。日本国内にたくさんあったギターメーカーもばたばたとつぶれて、けれどそうした冬の時代を切り開くかのごとく現れたのが、エレキギターの雄クラプトンだったというのはちょっと意外な気もします。
クラプトンの引き起こしたアンプラグドブームというのは、電気を通さない生音の音楽を復権させたかと思えば、ギターという楽器にも再び光を当てて、このアルバムがリリースされてもう十年以上にもなるのですが、表舞台に躍り出たギターという楽器は再びスタンダードの位置を勝ち得たのか、下火になることなく、落ち着いたブームを保っているように思います、というのは、もしかしたら私自身がギターを弾いているからそう思うだけかも知れないのですが、客観的にはどうなんでしょう。
私はなににせよかたちから入る人間ですから、ギターをはじめて最初に買ったアルバムというのも実にスタンダード、つまりクラプトンの『アンプラグド』を買ったということなんですが、このアルバムはギターを聴きつけない私にとっても非常に楽しめる、濃すぎもしない、もちろん薄すぎもしない、そういう絶妙なバランスを持った一枚でした。このへんが一般の音楽ファンにも広く訴えたのだろうなと思うのですが、けれどそれはマニア筋にはつまらないといいたいわけではなくて、だってやってる曲はビッグ・ビル・ブルーンジーとかロバート・ジョンソンとか、戦前ブルースだもんなあ。もともとは泥臭かったりするそうしたブルースがいやに洗練されて聴きやすく感じられるのは、やっぱりクラプトンのアレンジとかセンスとかがあるんだと思いますが、聴きやすい中にもマニアックな面白さがあるというのはさすがだなあと思うのです。
で、私はこのアルバムをまずCDで聴いて、ああこりゃ無理だなと思ったんですが、なにが無理かというと、自分がこれからギター練習してもこういう風には弾けないなってことなんですが、けどあきらめるのもなんだから頑張ってるわけですが、でも耳で聴いている分には一体どうやって弾いているかがさっぱりわからないわけですよ。だから、やっぱり映像が必要だなあと思っていたら、DVDが割りとお手ごろ価格で出ていたから、ちょっと迷った末に確保。そんなわけで、私はCDとDVD、二種類の『アンプラグド』を持っています。
もしこれから『アンプラグド』を聴きたいという人がいたら、私は間違いなくDVDをお勧めします。CDではわかりにくい楽器の使い分けや、奏者同士のコミュニケーションが見えて、ずっと楽しく見ることができるだろうと思うからです。開始当初にはクールで端正な面々も、最後の方にはいい感じに砕けてきて、見てるだけでも楽しい。特に私のお気に入りは、パーカッションの眼鏡のおじさんで、『ローリン・アンド・タンブリン』でのあのノリは本当に素敵。ああ、楽しそうだなあ。やっぱりセッションはよさそうだなあと思えてきて、自分もギター頑張ろうと思えるんです。
なんて書いてたら、また見たくなってきちゃったい。明日か明後日か、見ようと思います。
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