今、BLというのは書店においては避けることのできないジャンルであるらしく、ちょっと漫画に力を入れているような書店となると、がっつりとコーナーが設けられていたりしまして、つまりはそれだけ人気なのだと思います。こういう状況を見て私の古い知り合いは、男性向けなら弾圧されるが女性向けは一般書店の棚にも我が物顔、このダブルスタンダードには我慢ならないなんていっていたのですが、それはつまり女性向けばっかり優遇されてずるい、ってことをいいたいのだと思います。けど、女性向け男性向けという、性差における区分というのももうなんだかずいぶん古くさいわけかたであるわけで、だから私は文句いう前に積極的にかかわりたいと思っています。書店に入れば、一通り女性向けといわれる棚も物色して、あ、これよさそうと思わせるものがあればたまには購入して、『図書室のお兄さん』もそのようにして手にした一冊でした。
でも、ちょっと勘違いしていたみたい。というのもですね、私はこの本をコアでハードな性描写に溢れた漫画であろうと思っていたのですが、いざ読んでみればそうじゃないのですよ。この本に収録されたのは純愛の光るものばかりで、表題作こそは性描写にも大きくページが割かれており、またギャグっぽい落ちも楽しいのですが、けれどそうした表現を繋ぐのは純愛であると思います。美しいと感じた人、そしてついには愛するにいたった人への憧れ、尊敬、慈しみ、そういったまっすぐな思いが悪ぶっているお兄さんの心を射止めてしまうというところがなんかほほ笑ましくて、いい話だなあ、まさしくハッピーエンドだよって思ってしまうのです。
先ほどもいいましたが、この本に収録されているものは純愛ものです。それでもって、ボーイズというよりメンズ。そんななか、シチュエーションとして一番萌えたのはメンズ中のメンズというかむしろおっさんが主人公の「Little by Littele」でした。表紙めくったところのカラー口絵がこの「Little by Littele」だったのですが、私、この絵を見たときに、ああしくじったと思ったんです。ちょっと無精髭でちょっとごつい金髪のおっさんが笑っていて、でもこれが、読んでみたらいいんだ。ちょっとしょぼくれたばついちのおっさんが、なんというか、すっごくかわいく感じられるんだからもうどうしようもない。私、この本で少し人間としての幅が広がったような気がします。
そして、一番好きな話が「ホワットエヴァー」。女性型メイドロボットを注文したつもりが、やってきたのは男性型だったという、『グリーンゲイブルスのアン』のちょうど逆バージョンといったような話で、けれどこの話というのが恐ろしく感動的であるからBLというジャンルは侮れないのです。これは一言でいえば、愛を探すアンドロイドの話なんだと思う。アンドロイドというにはあまりにも人間的すぎるサリー。彼がマスターであるミッキーに、機械や道具としてではなく、人格を有するものとして遇されたことで育まれた感情。彼はこの感情をかたちとして返したいと思って失敗し、そして少しこっけいでけれどすごく美しいラストへ。ああ、この話に出会えて私はよかったなと、そんな風に思った。これは、直接的に愛を描かず、しかし充分に愛というものを表現している、そんなとっておきの素敵な漫画であると思います。
- 真行寺ツミコ『図書室のお兄さん』(GUSH mania COMICS) 海王社,2006年。
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