『ひだまりスケッチ』がはじまったころ、普通に面白く読んで、普通に楽しみにしていた、そういう感じの、強烈な印象であるとか読者に次号を待ちわびさせる飢餓感みたいなのとは無縁の漫画であったのですが、それがあれよあれよと人気が出て、巻頭カラー、表紙、そしてついにはアニメ化。驚きました。おそらくは芳文社初のアニメ化された漫画で、そのためか芳文社はちょっと浮き足立っている模様。というのはアンソロジーが出たり、ファンブックが出たりと、正直なんかちょっと危ういなあなんて風にも思うのですが、けどできれば成功して欲しいものだと思います。なんでもかんでもアニメ化される風潮がいいとは決して思わないけど、けれど真摯な取り組みによって生み出されたよい漫画に日の目が当たるというのは、やっぱり悪い気がしません。私はアニメ見なくなって久しいから、一体どういうできであるかとか知らないのですが、けどこうした盛り上がりがあるのは四コマにとって悪いことではないと思っています。
さてだ、私は『ひだまりスケッチ』についてはすっかりもう書いたもんだと思っていて、けど調べてみたら書いていなくて驚いた。あれー、なんでだろう。でも、この漫画について書こうとしなかったのはわかるような気がします。私はどちらかというと頭優先で分析的に漫画を読んでいるようにとられがちなのですが、それはおそらくは思ったところを文字にする過程でそういう部分だけがこしとられて残るからだと思うのです。つまり、情緒的な部分、感覚感性的な部分は文字にならずに流れ去ってしまっている。そして『ひだまりスケッチ』という漫画においては、その私が常に流してしまっている部分が重要だと感じているものだから、きっと文章にはなりにくかろうという判断がなされたのかも知れません。
でも、本当はそうではないと思うのです。書こうと思えば書けるはず、けれど書かずに距離を置いているのは、その感覚的に受け取っているものが文字に変わることで固定されるのを嫌っているからなのだと思います。そう、『ひだまりスケッチ』という漫画は、繰り返されるギャグや宮子に代表される常識外れ系キャラクターの不思議な言動行動を軸に話を進めながらも、常に力点は彼女ら登場人物の関係のうちにあると思うのです。それは非常に近しく親しげで、穏やかで温かで、そうしたところがおそらくは受けたのであろうと思っているのですが、この不定形であるがためにいとおしいと思えるような関係性は言葉にされることでひとつのかたちを持ってしまう。そのかたちをなさしめることに抵抗があったのだろうと感じています。
『ひだまりスケッチ』の舞台は美術学校であるのですが、同じく美術科を扱った『GA』とは趣を違えて、『GA』が美術の専門領域の層にフォーカスするものであるとすれば、『ひだまり』は学園あるいは寮生活を通して営まれる人間関係にフォーカスしていると感じられます。けれど、それはこの両者がまったく乖離するかのようなあり方をしているわけでなく、『GA』に専門性を離れた学校生活の一コマが光ることもあれば、『ひだまり』に芸術に取り組まんとする学生の意地プライドが見えることもあり、すなわちこれらは異なる視点から美学生の青春を見つめているということなのでしょう。美術という題材をモチーフにしながらこのように味わいの異なる漫画がひとつの雑誌に共存しているというのがすごく面白い巡り合わせと感じられ、またどちらがよい悪いといえない両者ともの質の高さ。今、四コマ漫画は確かに豊かなジャンルになったのかも知れないと、そんな風に思います。
蛇足を忘れていた
沙英さんですね。クール系だけどクール一辺倒じゃないのがいいじゃないですか。
- 蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2005年。
- 蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2006年。
- 蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2006年。
- 以下続刊
- 『ひだまりスケッチアンソロジーコミック』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
- 蒼樹うめ『ひだまりスケッチブック — ビジュアルファンブック』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
0 件のコメント:
コメントを投稿