2011年4月8日金曜日

少女カフェ

 いまや少女といえばカフェか素数か、そうした風潮でありますが、本日はカフェ、カフェの方であります。板倉梓『少女カフェ』。優しいを通り越してちょっと頼りないお父さんがマスター。その名もカフェサンフランシスコ — 、サンフランシスコの定番ブレックファースト、パンケーキを売りとする喫茶店を舞台としたコメディ、楽しい漫画であります。さて、そのカフェサンフランシスコが少女カフェである理由。ええ、お父さんには娘があるのですよ。ふたごの女の子。みおとつくしのふたり。しっかりもののつくし、ちょっとどんくさいみお、ふたりともすごく可愛くて、ああ、まさしく看板娘。しかしただ可愛いだけじゃないっていうのがよいのですね。

つくし、ちょっと辛辣。じゃあみおはというと、天性のつっこみ力があって、その踏み込んで斬りつけるかのような言葉の鮮かさ、やっぱりちょっと、いやむしろつくし以上に辛辣だったりしましてね、しかしそれが本当に素晴しいのですね。見た目に甘い子たち、けれど実はビターなんだという、そのちょっとの苦さが、彼女らの魅力をことさらに引き立てています。

そして魅力は店の常連客、お父さんの以前からの知り合いである葉月さんや、最近訪れるようになった宮嶋さんが代表格。コピーライターやっている葉月さんは、見た目にかっこいい女性なのだけれど、どこかちょっと駄目なところがあったりして、そこがチャームポイントになっていますし、浪人生の宮嶋さんはといえば、どこまで本気だかわからない言動が光る、もう大好きですよ。いや、葉月さんのことも好きなんですけどね。というか、この漫画に出てくる人たち、みんなが好き。ええ、いい人ばかりなんですね。

だから、やっぱりマチコさんのことも好きなんです。『少女カフェ』は、おっとりしたお父さんとしっかりものの娘たちが頑張ってる漫画。お母さんは、先月病気で亡くなりました。ええ、この漫画は、妻を亡くした夫と、母を亡くした子供たちと、そして友人を亡くした女性の物語でもあるのですね。明るく振る舞っている、そうした人たちの姿、その笑顔の向こうに悲しさが隠されてる。折りに思い出されるお母さんのこと、マチコさんの思い出、それはちょっぴり切なくて、けれどとても穏やかで、それが穏やかであるがゆえにたまらなかった。涙が次から次から溢れてきて、容易に読み通せなかった。途中、休み休み読み進めて、ああ、この人たちは、大きなものを失って、大切な人とお別れして、そうした欠けてしまったものを埋めあわせんとして、ひとつ場所に寄り添うようにしているのかも知れないな。ともすれば心の中いっぱいになってしまいそうな悲しみや不安、怖れ、それらが溢れてしまわないように、ともにあって、支え合っているのかも知れないな。そんなことを思ったのでした。

カフェサンフランシスコは癒やしのカフェ。それは、まずその店に働く人たちが、互いへの愛おしさを胸にともにある、そんな場所だからかも知れません。悲しみをではなく、愛情を注いで注がれて、そうした彼らだからこそ、訪れる人たちをも癒やせるのかも知れません。そして、それはきっと、マチコさん、彼女もそうだったのだろうな。彼女の注いできた愛情、それが今も息づいてここにあり続けているのだろう、そう思わせるのですね。

  • 板倉梓『少女カフェ』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2011年。
  • 以下続刊

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