2011年1月1日土曜日

ラッキーストライク!

 単行本が出る日を心待ちにしていました。『ラッキーストライク!』。ボウリングの漫画です。ひょんなことからソフトボール部をやめることとなったレンが、友達のリンに誘われてボウリングの世界に身を投じる。それからのレンのボウリングに取り組む様子が実によいのですよ。レンを指導するのは、ボウリング部部長のタキ先輩。基本を重視した教え方は、本当によい教師であるなと感心するほどで、実際このとおりにやれば、自分もボウリングが上達するのではないかなと思わせるほどに説得力あるのです。なんせそれまで、ふーんボウリングかあ、自分には関係ないし、とか思っていた私が、なに! ボウリング! 見る見る! ってくらいに、ボウリングに興味を持つようになった。ボウリングについてちょっとでも見方がわかってくることで、面白さもわかるようになってきたみたいなのですね。けれど、ただボウリングがわかるというだけではない、そこにはちゃんとレンたち部員の個性が生きている。それもまた面白いと感じさせる、重要な要素であるのです。

しかし、タキ部長の厳しさ、これは本物です。ボウリング初心者のレン、彼女がちゃんとボウリングのゲームをしたのって、1巻時点では入部する前だけでありまして、つまり入部して以来、1ゲームもやっていません。そもそも、入部してすぐなんて、ボールすら持たせてもらってない。普通に練習しているリンやレイ先輩を見ながら、ボウリングシューズをはいて、スライドの練習ばかり。ボールを持っても、今度は延々ふりこの練習。一歩助走でやっと投げられると思ったら、ピンを狙っちゃいけないとくる。こんな具合に、とにかく基礎ばかりをやらされる。楽しくボウリングしながら、いろいろ覚えていきましょう、なんて雰囲気まるでなし。基礎、基礎、基礎のスポーツ志向ボウリングの世界が描かれているのですね。

でも、これが面白いというのだから、この漫画はすごいのです。タキ部長の指示は、理不尽に試練を課しているわけでなく、ましてや新入生をいじめてるわけでもない。ちゃんと理にかなってると思わせるに充分な説明があるものだから、なるほどそうかと納得もできれば、好感も持てるってわけです。でも、基礎ばっかりじゃ面白くない。はやく投げたい、マイボールが欲しい! そう思うレンの気持ちもわからんではないから、この子のじたばたする様子に、昔の自分思い起こすようにして共感したり、なんだか暖かい目で見守りたい気分になったりしちゃうんでしょうね。まあ、気持ちはわかるけど、ここは部長に従っとこうよ。そんな気分で見ているのですね。

どちらかというと、がつがつと先に進みたがるレン、やんちゃな女の子ですよね。この子がヒロインであるわけですが、他の部員はというと、おとなしくて素直で、けどボウリングとなればきりっとして、実際結構な実力者というリン。レンの以前からの友達でもありますね。先輩には、凛々しく厳しくボウリングの実力はかなりのもの、タキ部長がいて、この人は3年生。2年生の先輩はレイ先輩。クールで知的でボウリングもかなりの腕なのに、気の弱さで結果を出せない不遇の人。こういった個性がうまいこと関係しあうことで、より一層の面白みが生み出されて、こういうところも非常に素晴しい。

いい感じに、皆、自分に素直というか、正直というか、真っ直ぐで、そして時にちょっと辛辣なんですよ。特にレイレイがそうなんだけど、レンの様子を見て自分もがんばろうと思っている。けど、その反面、下手な人を見て安心してるとか、さらには、早くカベにぶつかればいいのに……数あわせ…。結構、いいたいこというようになってて、けど嫌な先輩かというと、そんなことはないんです。面倒見はいい。ちゃんと教えてくれる。惜しむことなく、情報を提供してくれる。いいライバルって感じなんでしょうか。屈託なく、いいたいことをいい、やりたいようにやってるレンにひっぱられて、だんだんちょっとずつ横着になってるというか、遠慮しなくなってるというか、いや、もう、これ実にいい感じ。プレッシャーに弱い、考えすぎてわからなくなり自滅する。そういった彼女の問題は、レンという奔放な後輩を得たことで解決に向かうんじゃないかな、そう思わせるようなところがあって、いや、ほんと、いい仲間であるなあ。そんな実感があるんです。

こうした感触は、リンにもタキ部長にももちろんあって、ちょっと怖い失敗をしてしまったレイをなぐさめるタキ部長には、厳しさの中に優しさを合わせ持っていること感じて、ほんといい先輩だなあって羨ましくなった。ときに思うようにいかずふてくされてしまうレンをなぐさめ、力づけるのはリンだものな。ほんと、レンはいい仲間にめぐまれてよかった。ええ、『ラッキーストライク!』がただ、読むとみるみるボウリングに詳しくなる漫画、ではないというのは、こうしたところにあるんです。レンはいい仲間、先輩に恵まれたね。厳しいながらも楽しい部活ものとして読むことができます。さらには、登場人物、みながそれぞれに背景を、問題を持って、動いていると感じられるところが素晴しい。レイレイは、気の弱さ、プレッシャーに負けてしまい実力を発揮できないという弱点がある。さらには、完全無欠と思っていたタキ部長、彼女にもなにかがありそうと思わせる描写があって、本当、これからどういう物語を見せてくれるのだろう、すごく期待がふくらむのですね。

そして、リンにまつわる物語。冒頭描き下ろしにて語られた彼女のこと。リンを勧誘した際のタキ部長の殺し文句、ぐっときました。ああ、私は、リンに関しては順風満帆と思っていた。けれど違ったのか。リンも乗り越えてきたものがあり、そしてきっとこれからもいろいろ乗り越えていくのだろう。そうした背景を感じて、ええ、一度に彼女のキャラクターも深まって、ほんと、この単行本、読んでよかった。読めてよかった。そう思ったのでした。

  • みそおでん『ラッキーストライク!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2010年。
  • 以下続刊

引用

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