これはいわゆる百合というやつでしょう。『おしおきっ!』。なにをやっても平均的、平凡そのものといった女の子が、成績優秀スポーツ万能、まさしく文武両道の生徒会長のこと、好きになってしまった。ヒロイン、白藤湊。生徒会長は東雲紫苑。はたして湊の気持ちは紫苑に通ずるのか。あるいは、恋破れてしまうのか。ちょっとストーカー気味の湊が、紫苑にぐいぐい迫っていく、そんな展開を予想させた序盤。いや、しかし、これ、こんな展開するんだ! 驚きももはや懐かしい。ええ、まさにその序盤、のっけから驚かされた漫画であるのです。
いえね、東雲紫苑は眼鏡の生徒会長。彼女がえらいキャラづけされてましてね、ええ、タイトルの由来でありますよ。眼鏡をはずすことで、性格が豹変する。ちょっと気弱で優しい女の子だと思ってたのに、眼鏡がはずれると、高圧的なサディストに変身するというのだからすさまじい。びっくりしましたね。一体、どういう展開を志向しているというのか。湊に対していう、ふふっ良い鳴き声… [中略]これから犬として私に仕えなさい
。素敵! しびれ……、じゃなくて、唖然としましたね。ほんと、しかもこれで湊がその申し出、いや、命令というべきか、受け入れてしまうというんです。ほんと、驚愕の序盤でありました。
しかし、この勢い、まだまだとまりません。生徒会副会長松葉桃花、会計若草ちとせ、ふたりともに調教済み。いや、ちとせはちょっと違うのか。より上級者である桃花、対してちとせはいたずらやら失敗が発覚して結果的におしおきされるというだけで、それを望んでいるわけではない。でも、なんやかんやでしょっちゅうおしおきされているから、それが好きなのかと思ってしまうほど。それに、おしおきが好きじゃないというだけで、ちとせもあんまりまともといえるような人ではないから、だって大抵の騒動はこの人をきっかけにして発生しているわけですし。
紫苑に憧れた湊がアプローチする、そんな始まり方をした漫画は、紫苑がご主人様、湊が犬という、アブノーマルな関係を内包する、ほのぼの学園ものとして展開していって、そして紫苑と湊、ふたりが姓ではなく名前で呼びあうようになって急展開します。これ、展開としては実際急転直下といっていいようなものだったのですが、湊に押されてどぎまぎする紫苑の様子など、展開を予想させる描写をもって充分に準備されていたものですから唐突とは感じさせず、むしろ、なんというのでしょう、やっとか! そう思えるようなところありまして、ええ、まったくもって望ましい決着であったのでした。しかも単行本ではその後のふたり、湊に主導される照れ屋の紫苑なんてのがどーんと読めたこと、これも実によかったのでした。
- かぐらゆうき『おしおきっ!』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2010年。
引用
- かぐらゆうき『おしおきっ!』(東京:芳文社,2010年),15頁。
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