『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』というアニメがありました。2010年1月にスタート。ちょうど一年前ですね。はじめて見た時の驚きは今も覚えてる。なにこれ、映画みたい! 絵がきれい。動きもいい。それに音楽がすごくいい。アニメノチカラ、最初のアニメでしたね。トランペットに憧れて、音楽を学べるからという理由で軍にはいった女の子、空深彼方が主人公。そのカナタが配属されたセーズの町、第1121小隊にて経験することごと。それは時にコメディタッチ、ほのぼのとした軍隊ものらしからぬ明るさがあったのですが、けれどその根底にはしっかりとしたテーマがあったな、そのように思っています。
けど、放送時にはいろいろ文句もいっていたんですね。丁寧に作られたアニメでした。実際、最後まで楽しみに見ていて、だからこそというべきでしょうか、ちょっとラストが弱かった、そんな風に思ったんです。最終回、復活した旧時代の兵器タケミカヅチで砦を脱出し、今にも戦いの始まろうという前線に降り立った第1121小隊の面々。我らがヘルベチア軍の停戦信号が吹き鳴らされ、続いてローマ軍の停戦信号。しかし止まらない両軍。そこでカナタのとった行動は!? これは予想していました。予想していただけに、もっともっと大げさに、それこそお涙頂戴といわれるほどの過剰演出で描いてくれたらよかったのに、そう思ったのでした。それこそ、両軍の兵士が立ち止まり、カナタの旋律に耳を傾けるどころではなく、合唱がはじまる、おっさんたち、おいおい泣きながら大合唱だよ! それくらいでもいいと思ったんですね。
けれど、割とすんなりとかたがついた。講和がなった! という報が飛び込んできたというのもありましたしね。そんなわけで、このラストは私にはちょっと物足りなく、さらにいえば、第10話にて描かれたリオとの別れのシーン、あんなに見事に別れを描いておきながら、リオさん、戻ってくるんだ! なんで!? やっぱり、ほのぼのと楽しい日常はこれからも続くのでした、じゃないといけないの!? なんて思ったりしたのでした。
別れはつらく、だからそうしたつらさ悲しさが消毒されてる方が好まれるってことなのかなあ。この感想は、昨年の夏、ちょうどお盆の時期に全話視聴した時にも感じて、ええ、お盆になるとこのアニメ見たくなるんですよ。ほら、あのフィリシアの過去の語られる回、まさにお盆の話ですから。とにかくほのぼの日常ものといわれやすい『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』にあって、強烈にシリアスを叩き込んでくれる回でした。けど、実はこのアニメ、そうしたシリアス、厳しさっていうのあちこちに描かれてるんですよ。戦災孤児の存在。みそっかすといわれ続けてきた主人公。この部隊にある人たち、あるいはセーズの町の人たちも、悲しかったりつらかったりする出来事を経験している。そうしたことが描かれていたからこそ、なんでラストに甘さを持ち込んだんだろう。疑問に思っていたんです。
けど、BDを買って理解しました。BDには7.5話「饗宴・砦ノ戦争」、そして第13話「空の音・夢ノ彼方」が収録されていて、第13話、これ見るとさっきいってたラストへの感想、それがまったく違ってくるのです。なぜリオは戻ってきたのだろう。なぜ戻ってくる必要があったのだろう。楽しい日々が恋しかったからか? それとも仲良い皆と離れがたかったからか? いや、どちらでもないってことがわかるんですね。見るまでは、ちょっとした後日談みたいなものだろうって思ってた。けれど、違った。これ、真実の意味で最終回だった。堂々のラスト。リオが戻ってきたのは、永遠に続く現在を予感させる仕掛けなどではなかった。むしろ、彼女らの現在は刻一刻と未来に向かって動いている。未来を見据えて、現在を懸命に生きようとしている彼女らの姿が描かれていたといってよいでしょうか。そして、これまでにも語られてきたこと。先輩と後輩、この世界の意味とはなにか、あるいは生きることの意味でしょうか、多様に提示されてきたテーマが見事にまとめられ、決着を見る、そうした回であったのですね。永遠の現在に留まろうなどという、後ろ向きの気持ちはここにはない。変化し、前に進むことを怖れない、見上げた空は大きく広がっている、そうした気持ちこそがいきいきとして、晴れやかなエンディングであったのです。
テレビの放送だけでこのアニメは評価しちゃいけないな、そうした感想を持ちつつ、けどこのラストが広く知られることのない、BD/DVDを購入したものだけの特権になってしまっているのは本当に惜しい、そう思わざるをえない出来でありました。本当に、これを見てよかった、見る機会を得られてよかった、そう思っています。
ところで、BD/DVD購入者の特権といえば、ええと、完全生産限定版に限るのですが、イベントの映像やソラヲトTVが収録されたDVDがついてきてまして、これ、イベントもなのですが、ソラヲトTV、ものすごく面白いね。金元寿子さんがトランペットを習ったり自衛隊に体験入隊してみたりという、番組広報映像なのですが、頑張る彼女を見てるとすごく力がはいるんです。第9回はこのDVDのみに収録なのですか? トランペットの最終回もあるのですが、あれも面白かった。というか、この人、上達がえらいことはやくない? 正直びっくりするくらいだったんですが、才能があるのか、先生がいいのか、仕事で必死だとやっぱり上達するのか、いずれにしてもすごいと思った。ああ、自分もトランペットはじめてみようかな、そんなこと思わされるほどだったのですよ。
参考
- ASCII.jp:アニメでも箱庭は作らない 「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」監督に聞く【前編】|渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」
- ASCII.jp:つながる世界、アニメで描く 「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」監督に聞く【後編】|渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」
BD(完全生産限定版)
DVD
DVD(完全生産限定版)
CD
漫画
- Paradores原作,神馬耶樹作画『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』第1巻 (電撃コミックス) 東京:アスキー・メディアワークス,2010年。
- 以下続刊
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