2005年8月27日土曜日

無限の住人

   コミック・バトン企画「今おもしろい漫画」第二弾は沙村広明『無限の住人』。リストを作ってみて驚いたのは、もう十年以上続いてるんですね、この漫画。不死身の侍万次さんが無天一流統主の娘浅野凜の仇討ちを手伝って、かたきを見つけてはばっさばっさと切りまくる痛快時代劇アクションであったのが、第三の勢力が出てきたり、凜の親の仇である逸刀流が落ちぶれたり(?)で、状況雰囲気双方、えらく違ってきてしまいました。けど、その時それぞれに味わいを違えながらも、その時々の面白さを追求していて、読み手としてはもう続きが楽しみで仕方がない。大好きな漫画であります。

この漫画のいいところは、キャラクターの存在感であろうかと思います。まず卍(万次)さん。自分の過去に負い目があるから、凜のためにはそれは必死(といっても不死身なんだけどさ)で戦うのですが、その戦いにおいて常に強いわけではないというところがいいのです。確かに強い。ですが、結構やられ、あるいは完全に打ち負かされたりして、けれどそれでも自分のベストを振り絞る卍さんは恰好いいんだよ。結構粗っぽくて、詰めの甘いところもあるけれど、だから憎めなくて、時に見せる人のよさ、ナイーブなところにはほだされます。私は卍さんが大好きです。

凜もいいですね。この漫画を読んでいると、主役はやっぱり凜なんだろうなと思えてくるのですが、そうした部分も抜きにして、凜はよいです。仇討ちに出て、しかし迷いも見せて、そして自分の弱さを苦く噛みしめては、より前へ前へと進もうとする凛々しさ! 私、こうした克己心にあふれた人は大好きです。時に無茶をして、時にはひどい目にも遭っていますが、それでも凜はしっかりとまもられてるから読者としても安心です。

とまあ、こんな感じで好きなキャラクターをあげていったら、きっとこの記事はとんでもない長さになるでしょう。凜にとっての怨敵である天津影久も魅力的であるなら、『無限の住人』世界最強の名を欲しいままにする乙橘槇絵などはもうなんと言葉にしたらいいかわからないくらいに素敵。明るく振る舞う影に悲しみの透ける百琳も捨てがたく、世界最強級の宗理先生もいい味だして、その娘辰もいい。と、数え上げていけばもう大半のキャラクターをあげなければならなくなります。

でも、尸良は大っ嫌い。吐き気がするほど嫌い。卍さんか凶戴斗あたりにさっさと切られちまえばいいのにと、そんなこと思うくらいに嫌いで、けれどこれほど嫌うというのは、それくらい個性が際立っているという証拠なんでしょうな。もちろん尸良以外にもやなやつ、嫌いなやつはいますが、とりあえず今のところ尸良は別格であります。

キャラクター話ばかりになってしまいましたが、こうした個性の強いキャラクターをわんさと出して、決して負けることなくずんずん進んでいくストーリーの強さというのもすごいものでありますよ。時代劇の皮はかぶっていますが、明らかに時代物ではあり得ない独特の現代性を持ち合わせていて、考証なんか糞くらえ、面白ければそれで充分だっ、って人には特にお勧め。途中からでも読みはじめれば、引き込まれてどんどん先を先をと読んでしまうほどに魅力的な漫画であります。

あ、そうじゃ。今の私の一押しキャラクターは怖畔。ロイハー! ロイハー!の名文句は、漫画史に堂々残るものであると思います。いや、ごめん。ちょっと本気です。

しかし、にしても、この人の描く漫画は、女が恰好いいんだなあ(怖畔のことじゃないっすよ)。

  • 沙村広明『無限の住人』第1巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1994年。
  • 沙村広明『無限の住人』第2巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1994年。
  • 沙村広明『無限の住人』第3巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1995年。
  • 沙村広明『無限の住人』第4巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1995年。
  • 沙村広明『無限の住人』第5巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1996年。
  • 沙村広明『無限の住人』第6巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1997年。
  • 沙村広明『無限の住人』第7巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1997年。
  • 沙村広明『無限の住人』第8巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1998年。
  • 沙村広明『無限の住人』第9巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,1999年。
  • 沙村広明『無限の住人』第10巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2000年。
  • 沙村広明『無限の住人』第11巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2001年。
  • 沙村広明『無限の住人』第12巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2002年。
  • 沙村広明『無限の住人』第13巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2002年。
  • 沙村広明『無限の住人』第14巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2003年。
  • 沙村広明『無限の住人』第15巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2004年。
  • 沙村広明『無限の住人』第16巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2004年。
  • 沙村広明『無限の住人』第17巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2004年。
  • 沙村広明『無限の住人』第18巻 (アフタヌーンKC) 東京:講談社,2005年。
  • 以下続刊

引用

  • 沙村広明『無限の住人』第18巻 (東京:講談社,2005年).143頁。

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