コミック・バトン企画「今おもしろい漫画」第一弾は山口貴由の『シグルイ』。私は、この特徴的な題を目にして以来、どうにも気になって仕方がなくて、というのも作者がかの『覚悟のススメ』を描いた山口貴由であるのですから、興味をそそられないわけがありません。いや、そうした名前なんかなくてもきっと私はこの漫画に手を出したと思います。表紙に居並ぶ一種尋常を逸した裸像。一目見れば、ぎょっとして立ち止まってしまう。手に取るかあるいは見なかったことにするかは、もはや私の意思の及ぶ領域ではありませんでした。
山口貴由の尋常でなさは『覚悟のススメ』の時点ですでに知られたところでありましたが、しかし『シグルイ』にいたっては『覚悟のススメ』どころの話ではありませんでした。いや、『覚悟』が劣るというのではないのです。その両者は表に現れる傾向を異にしていて、例えば『覚悟』には見られた手塚治虫的絢爛は『シグルイ』からはきれいさっぱり払拭されている。『シグルイ』には、極力無駄を廃し、遊びをなくし、濃密な表現がどぶどぶと口いっぱいにまで注がれていて、それが醗酵して今にも熟成しようとしているのです。
私は一巻二巻と読み進めて、これはすごいことになりそうだぞと、思わず声にしてしまいそうな感触を得て、三巻四巻とくれば、この先どう流れていくのか、どのような運命の下に彼らはまみえるのか、先を知りたくて仕方がない。次はいつかと、先をはやる心を押さえるのが苦しいほどです。
とまあ、そんな『シグルイ』。激突する二人の剣士は、西方藤木源之助、東方伊良子清玄。克己禁欲の人藤木と闊達にして快楽に貪欲である伊良子、 — この性質を真っ向から違える二者のせめぎあうその際こそはまさに劇的緊張の最前線であり、上質のエンタテイメントの醸成される場であります。
私はというと、真面目実直を絵に描いたような藤木を応援してやまぬのですが、ところで、これはどうでもいいことなんですが、女の裸身も男の裸形も出てくるこの漫画、男の裸体の方がはるかに優って艶めかしく迫ってくるのはいったいどうしたものでしょうか。
ま、これは本当にどうでもいい話です。
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