『天秤は花と遊ぶ』は『まんがタイムきららフォワード』に連載されている漫画。気を抜くと、『コミックエール』掲載作と思ってしまう、そんな雰囲気もある漫画です。名門ロータス女学院を舞台に、春日野謡子と琴乃緒愁の不思議な関係が描かれる。華やかで、女の子たちの心のさざめきに目を細めたくなるようなことさえある、そうした漫画で、だからなおさら『エール』掲載と思ってしまうのでしょう。ですが、これは紛れもない『フォワード』掲載作で、そして人気もあるのでしょうか。単行本化されるにあたり、2009年5月号の表紙を飾ったのは『天秤は花と遊ぶ』でありました。その表紙がですね、よかったんですよ。ヒロイン謡子の元気さが飛び出してきそうに思うほど。場をぱっと明るくさせるような、そんな笑顔が素敵でして、また制服の赤、それも鮮かで、いい絵じゃないですか。単行本表紙の落ち着いた絵もいいと思ったけれど、私には『フォワード』表紙がすごくいいと思われたのでした。
というわけで、『フォワード』の表紙も引っぱってみました。ほら、とってもいい表紙。
さて、『天秤は花と遊ぶ』、先日の『きらら』感想においては吸血ものと表現していましたが、琴乃緒愁が吸血症と呼ばれる体質で、定期的に血を必要とする、そうした設定を持っています。さらに加えて、現在の愁は男でも女でもない、というのは、吸血症の人間は、18歳までに摂取した血の量、その男女の比率で性を決定する、すなわち18歳に満たない愁は、まだ性別を持っていないというわけです。ゆえに、表題の天秤は彼女、いや彼なのか? にかかるのでしょう。ということは、謡子が花なのか。いや、不満なんてありません、可愛い娘だと思いますから。
愁はもうひとつ秘密を持っているみたいなのですが、そしてそれはおそらく今後の展開において、重要なピースとなるのだろう、そのように思うのですが、それがなにかは今はまだわかりません。血を摂取する必要があり、摂取した血液の男女の比率により性が決定される。愁はこれまでは血液パックと愁の秘密を知る養護教諭蓮宮の血を摂取して、これら秘密に繋がれた閉じた関係を守ってきたわけですが、そこに謡子という人間が新たに加わることで、少しずつ愁の周辺も変化していって、また愁の心も揺れ動きはじめて — 。そうした心の機微、そして学園におけるアイドルである愁を取り巻く人間関係の変化、そこに生じる人の思いのもろもろも、なかなかに魅力的でありまして、結構好きなんです。というか、かなり好きです。
血液を必要とする愁、その設定が状況に大きな影響を及ぼして、まあそれはこの漫画の最大のギミックなんですから当然としても、話の展開がこの吸血がらみばかりで動くということもまたありません。そこには、普通の学園もの、というか、女子校ものとでもいったらいいのでしょうか、そうした展開があって、愁に謡子に憧れる女学生が出てきたり、またライバルという女生徒も出てきたり。それはコメディタッチであったり、またシリアスというほど深刻ではなくとも、しっとりと心に跡を残すようなそうした筆致で描かれたりして、バラエティ豊か、読んでいて楽しい。深刻すぎることがない、それがいいのかも知れないですね。ええ、本当に楽しいです。
けれど、多分、話が進んでいくうちに、深刻の度合いも増していくのだろうな、そんな予感もして、まあ、それも一緒に楽しんでみせるさ、そんな気でいます。そう思わせてくれるのは、謡子のあっけらかんとした明るさ、常に元気であって、困った状況があったとしても、くじけることなんてきっとなさそうな、立ち止まりそうな人があっても、その手をとってぐいぐいと引っ張っていってくれそうな、そんな力強さ、まあ迷惑っちゃあ迷惑かも知らんけど、が表現されているからだろうと思うんですね。私が『フォワード』表紙が好きといったのも、そうした謡子の気風が表現されていて嬉しくなるから、そんな理由であったのです。
さて、愁が吸血症により、血が必要なこと、摂取した血によって性が決定されることは、何度も書きました。その上で、好きな相手の血をおいしく感じるようになる、そうした設定もありまして、いまや愁は謡子の血をおいしいと感じるようになっています。ということは、これからの数年で謡子の血を多く摂取するようになる? そうなれば、愁は女性になる? こうしたことから、もしかしたら蓮宮は愁を自分の妻として迎え入れるために、女性の血液を必要とした、そのために謡子が選ばれた? なんて思ったりもしたんだけれど、これはどうも無理筋っぽいです。蓮宮先生はどうも結婚してるらしい。でもって、愁と兄妹らしい。
ここでこうも考えた。愁と兄妹っつうことは、蓮宮も吸血症だった可能性が出てくる。結婚して姓が変わったといっている。ここから導き出されるのは、かつて男でも女でもなかった蓮宮(旧姓はやはり琴乃緒でいいのかな?)は、近しくあった男性の血を摂取してきた、しかもおいしいと感じられるそんな男性の血を多く摂取してきた。その結果、男性になった。愛した相手と同じ性になるという運命のいたずらに悩むふたり。なぜふたりかって? そりゃ自分の血をあたえるんだもの、好意でもなきゃやってられんでしょう? ふたりは悩み苦しみ、そしてついにはその苦境を乗り越えたのか? 戸籍は女性にして結婚。故に琴乃緒から蓮宮姓になった。性だけでなく、姓も一緒になってめでたしめでたしだったのか!?
馬鹿なこといってますが、愁が謡子に好意を持って、そして同性になるんだとしたら、吸血症とはなんとも因果なものでございますな。こうした因果も含めて、今後の展開がなされるのか。愁の好意は、友情であるのか愛であるのか。それを謡子はどう受け止めるのか。そうしたところに発するであろう劇的な展開、あるんだとしたら実に楽しみなのであります。
あ、そうだ。ロータス女学院では、敬いと親愛をこめて呼び合うときは名前に「さま」をつける
習慣があります。なのになぜ愁はみそらに限ってはみそらさんと呼ぶのだろう。
さらなる謎を残して、皆様、ごきげんよう。
- 卯花つかさ『天秤は花と遊ぶ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
引用
- 卯花つかさ『天秤は花と遊ぶ』第1巻 (東京:芳文社,2009年),18頁。
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