2009年4月14日火曜日

いきなり☆ねこキック

 これはなんと可愛い眼鏡なのだろう。いやしかし、第1話を読んだときにはまったくそうした感想ではなく、実は途方に暮れた、冗談抜きで暮れた。また幼女か、しかもそのうえ裸か。くらくらと眩暈がするように感じて、もう本当に勘弁していただきたい、そんなことを思ったことも懐かしく思い出されます。第一印象は最悪といってもいい、そんな具合でしたから、当初の数回は好意的になど読んではおらず、まさしくそれはアウェイゲームといった様相を見せて、だからこうして単行本でもう一度、今度は違った目で、印象で、読み直すことができたことはよかった、そのように思っています。そして、そうした心境の変化をもたらしたのは、この漫画の内容の、私の思いもしていなかった方向に進んで、その与える印象がよかったということに尽きます。そうなんですね。当初、短絡して見限ろうかと思った、それが本当に見込み違いであったということなのですね。

私の印象を変えたのは、第4話でしたっけね。主人公、優の姉由羽が、優に迫る女の子、神坂さんに嫉妬したあまりに対抗して料理を作る。そんな回です。殺人的な料理を作ってしまう、そんなベタな展開にはじまった話は、段々にシリアスの色を強めていって — 。この回くらいからでした。わけありの姉弟、その背景があきらかにされていったのは。そして由羽の優に向ける屈折した思いというものも掘り下げられていく。その情景にいたっては、もう切なさがこみあげてくるようで、たまらない。思っている。しかしその思いを明らかにしてはいけない。そう思い込んでいる由羽の眼差しがたまらない。この漫画は優が、ネコミミの少女ちゃろを拾ってきてしまった、そうした突飛な設定をもって始まったけれど、その中心となる軸は、由羽の心の、思いの、ふるえている、そう思ってしまうほどに繊細に揺れ動いている、そうした模様にこそあるというのです。

読み始めたころは、一歩しりぞいて、遠巻きにするように眺めていた。けれど、今、もう一度、今度はそんな意地悪な気持ちなんて抜きにして、近しい気持ちで読んでみれば、由羽の位置、そして優との距離、そうしたものもよくわかる、ちゃんとわかるように描かれているのですね。また、ちゃろとはなにものなのか、そうしたものもおぼろげにほのめかされていて、物語の仕掛けというものもそれとなくわかるように作られていて、実に丁寧な仕事であります。そして、その物語のすべては、由羽と優の関係を、本来ならこうであったろうという関係に向かわせるのではなかろうか、そのように感じさせて、それはつまりは今の状況を望ましいとは思っていない誰かの意思があるということなのだろう。ふたりの関係がこのようになってしまっていること、それをすまなく思っている誰かがあるということなのではないだろうか。そのように思い、はたして先はどのようになるのか、覚悟しつつ、期待しつつ、読んでいるのであります。

上に書いたことは、あくまでも私の予想、そして私の予想ははずれると相場が決まっています。物語が私の予想を軽々と越えて展開される。それがなによりの楽しみであるから、そのはずれる時を思うとわくわくするものがある、ええ、わくわくとする気持ちを押さえながら読んでいるのです。

  • むつきつとむ『いきなり☆ねこキック』第1巻 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。
  • 以下続刊

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