2006年4月3日月曜日

だって愛してる

 売れない作家の夫を支えるけなげな妻の姿がいじらしく、けど耐えて忍ぶばかりが女じゃないぞというのが『だって愛してる』の本領なのだと思います。肝っ玉母さんなんていうとやたら古くさく感じられるんですが、けれど持ち前の度胸と包容力、そして明るさで夫雄二を支える街子を見ていたら、そんな古くささもどこ吹く風で、なんかいい景色が見えてくるようではありませんか。けど、母さんというにはまだ早く、奥さんというのも、妻というのもなんだかしっくりこないような気がして、そうですね、この人に似合うのはつれあいということばなんじゃないかと思います。作家のつれあい、二人三脚、少しずつ深まっていく、とそのような感じがする佳作。地味ながらなかなか侮れない佳作であります。

でもさ、旦那は甘えてるよな。妻が家計をパートで支え、放っておくと緩んでしまいがちな自分もしっかりつなぎ止めてくれる妻だなんて、そんなのフィクションの中だけの話ですよ。けれど、そうした一歩間違えると一方的になりかねない関係がしみじみとして見えるのは、それはすなわち二人の関係なんだろうと思います。街子はやはり耐え忍ぶばかりの人ではないし、雄二も妻をないがしろにするような甲斐性のある男ではないし、互いが互いを必要として、ああここでタイトルがくるのでしょうな。だって愛してる、なのでしょう。そうした情愛の細やかさが端々にそっとのせられているから、読んでるほうもなんだかほうっとするのでしょう。

しかし、なんだか二人の関係は夢のようだと思う。売れない作家にとってはまるで理想を絵に描いたような女である街子は、きっと売れない音楽家にとっても同じで、そしてきっとささやかな夢を追いながら暮らしの中に日々を流してゆくすべての人にとっての理想なのではないのかと、そんな風に思います。だから、きっと私はもし街子のような女が私の側にいたとしたら、これを決して近づけず、つとめて離れそむこうとするのではないかと思います。だって私にはそうした女に支えられる資格なんぞはないからで、いっそ寒風の中にひとり吹きさらされていたい。

けど、それが雄二と街子の話であらば、こうして穏やかに読めるのは、やはり二人の関係が夢のようだからなんだろうと思います。どこかに昭和の風が感じられる、少し昔気質の夢であります。

  • むんこ『だって愛してる』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2006年。
  • 以下続刊

0 件のコメント: