2008年2月10日日曜日

おはよ♪

 のびのびと育った娘、美咲の表紙も溌溂として、そして漫画はというと、これもまた溌溂。伸びやかな美咲、すくすくとした成長ぶりが変にアンバランスに映るのは、彼女が小学生だから。そんな美咲に戸惑いながらも、普通に小学生として対処する明ちゃんは紳士だね。ええと、この漫画の主人公は美咲でもその母親雪乃でもなく、ふたりが間借りしている先の息子です。名は明。勤め先の倒産をきっかけに実家に帰ったら、見知らぬ母子がいて驚いた。小学生に見えない小学生と、小学生の娘を持つとは思えない母親、見た目と中身のギャップに戸惑い、恋心抱きつつもそれを口にのぼすことさえできない甲斐性なし。はたして明の明日はどっちだ!? そんなお話です。

まあ、ちょっと嘘なんですけどね。けど、明が甲斐性なしというのは本当。実の母に甲斐性のなさを見透かされ、けど当の思い人である雪乃さんにはまったく気付いてもらえず、小学生にさえちょいちょいからかわれる始末で、けれど彼が甲斐性も度胸もないから、この漫画はほのぼのと楽しめるものになっているんだと思います。私も甲斐性なしなので、奴の気持ちはよくわかります。だからいうのですが、きっとこの先も進展することはないでしょう。

当初、見た目ギャップ母子で押し通すのかと思われた『おはよ♪』は、徐々に幅を広げていきまして、ほがらかな親子、けれどそのほがらかさ、明るさの裏に喪失感が隠されていたりして、これがキャラクターの厚み付けになっていくのだろうなあ。そんな風に思っています。父親のいない美咲。対して、見た目も中身も年相応の小学生(いや、ちょっと小柄か)である友達の萌香には父親があり、だんだん父親が疎ましくなっていく年ごろですね、嫌いじゃないけど敬遠してしまう、そんな複雑な時期にさしかかっている彼女がうまいこと対比されることで、美咲の特別な感じが見えてくるように思っています。

見た目大人っぽく、けれど中身はものすごく幼い美咲。多分ね、子供っぽいのは地なのでしょう。けれどそんな美咲には後悔があるから、それが逆に彼女の明るさに拍車をかけて、より子供っぽく見せているようにも思えるんですね。萌香はそうじゃありませんね。見た目は子供だけど、いつまでも子供扱いされるのはごめんだし、美咲の無邪気な振舞いに恥ずかしさ覚えたりして、けれど父親に素直になれず突っかかってばかりの萌香と、つらい過去を胸の奥に押しとどめ、常に明るく振る舞っている美咲、はたしてどちらが大人なんでしょうね。わかんないですね。わかんないです。

それに比べて、男子はしょうがねえなあ、そう思わせるのが八嶋の存在で、好きな子をいじめてしまうというのはもう仕方のない、習性というか業というか、男の子は仕方ないよねえ。もてない男子、もてる男子、いろいろいるけど、この漫画にてクローズアップされるのは、いかにも小学生男子八嶋、甲斐性のない明ちゃん、娘大好きでぶきっちょそのもの萌香の親父さん。男はほんとにしようがねえなあ。そう思いつつも、なんだか安心してしまうのは、小器用でない朴訥さ、共感かね? かもね。けど、思春期の娘もつ父親なんて、みな萌香の親父さんみたいなもんですよ。憎めないわ。三世代にわたるぱっとしない男たち、いい味出していて素敵です。けどこれって自己弁護?

漫画の中心には魅力的な女性があって、別に小悪魔的でもないし、お色気ふりまいてなんてこともない、穏健なほのぼの家族ものの味付けがありがたいと思います。そしてそれは、作者の家庭なんかもそうなんでしょうね。娘1号、娘2号との暮しの風景がちょこっとかいま見えるおまけもあって、この作者であるからこの漫画の雰囲気もあるのかも、そんな風に思ったり。ええ、実は私、作者ともちの身辺記が好きで、飾らない自然体っていうの? 楽しいわ、面白いわ。こういうの、すごく魅力的と感じます。けど、右手折っちゃった話は洒落にならんですね。そんなわけで、私も保険証、写しでもいいから、携帯したいと思います(けど、保険証もってても救急初診は大目にとられませんか?)。

  • ともち『おはよ♪』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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