2008年2月8日金曜日

ゆずりは!

 佐藤両々は面白いなと、はじめに思ったのは『保育士のススメ♥』読んでだったんじゃなかったかな。これが連載されていた時期というのが2004年。手慣れてきれいな絵、かわいらしいキャラクターに、ちょっとシビアなネタとわずかな毒気が効いていて、この人の漫画はいいな、そう思ったものでした。もともと私は職業ものが好きであるのですが、保育士とその娘の生活もろもろを描いて、実に濃厚、豊潤とでもいったものでしょうか。面白いわ、これは。なにより無駄がなく、引き締まっているところ、そこが素晴らしくって、本当に期待される漫画だと思っていたら終了、ええーっ! って、なんか最近こんなことばっかり書いてますね。けれどこれは後に『ミルキィーパンチ☆』として復活しまして、やああの時は嬉しかったです。

その二作が一冊にまとめられて単行本になりました。表紙には女性二人、けれどこれどちらも和歌子ですね。『保育士のススメ♥』では中学生だった和歌子が、『ミルキィーパンチ☆』では保育士になりまして、母の後を継いだのか! と思ったら母は現役、まだまだ頑張るよってなもので、二人が対比されることで、ベテラン保育士と新米保育士の違いがよく表現されて、これもまた面白いのです。新米ならではの苦労や迷いがあるかと思えば、時代の変化、それをものともせず受け入れ乗り越える母先生のたくましさ、などなど。『保育士』では描けなかったろうことがうまく補われた、そういう感触が残ります。主役の立場を違えたふたつのタイトルがひと繋がりになることで、保育の仕事を描くに関しても、また保育士を母にもった娘の物語としても、幅が広がった、本当に豊かになったものだなあ、そんな風であるのですね。

そして、なんでかこれが変に情緒に働き掛けるのだからおかしなものです。とりわけ『保育士のススメ♥』においてそうなのですが、読んでいて不思議とじんとするのです。保育士という仕事に全力で取り組む母に対して、娘和歌子は複雑な思い抱かぬわけでもないといったところ。けど、和歌子ももう中学生。仕事の大変さや尊さに理解を示さないでもなく、けどそれでも譲れないところもあって、もうお母さんはっ! こんな具合にふたつの感情があらそうこともしばしばで、けど母は強くて、ちょっとやそっとじゃ勝てんのですね。しかもこの母、無神経といえば無神経、その無神経に和歌子はかりかりしてるんだけど、けれどそれでも気持ちがぴっと繋がるみたいなところがあって、ええ娘やないかあ、ぐっとくるのですよ。

下手したら涙ぐみかねない。母はそりゃもちろん娘大事だ、娘も母が大事だ、それは当然のこととして、けどそれで素直になれないものが親子でしょう。けれど、面倒だったりわずらわしかったりする感情の奥に、そっと情がひそんでいるのもまた親子でしょう。ええ、親子ものとしても良質な漫画であります。保育の仕事を表に押し出し、また保育士の、リアルなのかデフォルメなのか、ちょっと特異な生態描きながら、同時に母と娘の思いが絡み合う感情のドラマになっています。これはちょっとできすぎかも知れない、それに和歌子はいい子過ぎる嫌いもあるしさ、でもその和歌子はあのお母さんの娘だから — 、納得させられるところがあるんです。そしてこの家のドラマはこの先も続いていくのかも知れない、余韻嫋々のラストを迎えまして、ああやっぱり佐藤両々はうまいわ! やられましたよ。笑って、仕掛けに気付いて、そうか! 感心して、やるなあ、また笑って、そして気持ちはしあわせにあふれて — 。いい漫画です。

  • 佐藤両々『ゆずりは!』(まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。

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