2008年2月26日火曜日

稀刊ツエルブ

 明日は『稀刊ツエルブ』の発売日。もしかしたら一日早く売られたりしていないかなとたまたま覗いた書店(三件目)に見付けることができまして、ああ一日早く読める、嬉しいな、買って参りました。『ツエルブ』というのはどういう雑誌かといいますと、表紙にサーティライフ応援マガジンと謳われているように、三十代を応援するという趣旨で刊行されている — 、まあ私も三十代であるわけですが、 — 女性誌なんです。2008年13月号の特集は30代からのPCワーク!。けれど、仕事色を前面に押し出すでなく、むしろ三十代という年代をいかに素敵に過ごすかというライフスタイルを提案する、そんな雑誌なんですね。三十代というともう若くもないし、けれどおばさんといわれるのも抵抗がある、それこそ微妙な年代であるわけですが、けれど本当は三十代っていうのはこんなにも素敵なのだよと、三十代女性っていうのはこんなにも魅力的なのだよと、そんな主張が感じられて、読んでいる私にしても元気づけられるというか、ええ、本当に嬉しくなる。そんな本であるのですね。

ページめくるごとに懐かしさが込み上げてくるようです。『ママはトラブル標準装備!』。私が『まんがタイムジャンボ』を買いはじめた時期というのは、まさしく『ママトラ』が掲載枠をかけてしのぎを削っていた、そんな時期でありました。

『稀刊ツエルブ』は、漫画家海藍氏の初期作品集。デビュー当時、あるいは投稿時代といってもいいのかも、漫画家としての色が確立される前の若い作品がこれでもか、ありったけ収録されている、そんな本であります。『トリコロ』以前といってもいいかも知れません。ストーリー色弱いものがあれば、ネタよりも全体の流れを意識したようなものもあって、ある種実験的、海藍という漫画家の成長の軌跡、初期の輝きを一望できる、そんな一冊なのですね。

しかしすごく懐かしい。氏の若草の頃。『まんがタイムジャンボ』に掲載されていたものがあれば、『ポップ』に掲載されたもの、そして私のまだ氏を知らずにいた頃のものまで、網羅的といってもいいくらいに収録されて、さすがメディアワークスというべきでしょうか、マニアの心をつかむ構成です。知っているものもあった、知らないものもあった、そしてそのどれもに思い出がつまっているようではないですか。好きだったなあ。もちろん『トリコロ』の海藍も好きだし、その後の紆余曲折含めて嫌いになれない私がいるのですが、それでも初期の海藍は格別と思います。懐かしさのせいですかね。まとめて読みたいと思っていた『ママトラ』を、今こうして読めたという、その思いのせいですかね。多分そうでしょう。感情の動きが、私を内側から揺さぶっていると、そんな風に感じられて、だから私は今ちっとも冷静ではありません。いやあ、駄目ですね。しかし、私は一体なにがこんなに嬉しいんだろう。いや、本当に駄目ですね。

『トリコロ』以後の海藍の面白さは、構成の緻密さ、そういうところにもあらわれて、対して初期の漫画は、ずいぶんおおらかであると感じられます。もちろん、今の作風に繋がる要素もある、当然ですね。けれど、もうちょっと、なんというか、粗削り、詰めの甘さ、気楽さ、そういった部分がちらほらと見て取れて、これはおそらく作風が固まるまでの右往左往の苦しみ、試行錯誤の跡なのかも知れないなあと感じます。絵柄もずいぶんと違って、しかも意識的に変えているとみえるものもあって、そうしたところも愛おしい。ああ、お頑張りやしたなあ。本当にこれは足跡だと思います。氏が真に偉大な作家になるかどうかはこれからにかかっているわけだけど、けどかつて萌え四コマと呼ばれていたジャンルにおける氏の功績は大きかった。それはそれは大きかったと思っています。

『ツエルブ』には、そこに至るまでの軌跡が収められているんですね。少なくとも海藍という作家個人の軌跡が見て取れる、履歴書とでもいえそうな出来に仕上がっています。この、氏のまさに伸びようとしていた頃に私は読者として関わって、氏に引き上げられるようにして、四コマ誌の世界にのめり込むようになったんですね。だから、ことさらに今日この本を手にできたことを喜ばしく思っているのだと思います。

  • 海藍『稀刊ツエルブ』東京:メディアワークス,2008年。
  • 海藍『トリコロMW-1056』第1巻 (Dengeki comics EX) 東京:メディアワークス,2008年;特装版,2008年。
  • 海藍『トリコロ』第1巻 (まんがタイムきららコミックス) 東京:芳文社,2003年。
  • 海藍『トリコロ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2004年。
  • 海藍『トリコロプレミアム』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2004年。

CD

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