まとめて読むと印象ががらりと変わる漫画っていうのがありまして、私にとっては『天獄パラダイス』がまさしくそんな感じでありました。最初、連載で読んでいた時には、若干の緩さ、キャラクターの可愛さに、ああ悪くないねえ、そんなくらいの感想であったのだけど、実際単行本でまとめて読んでみると、印象違いますね。なに、この多幸感! 緩いなんてもんじゃない、緩みっぱなし。漫画がじゃない、私の感情がですよ。けど、私は発売日にこの本買ったわけでなくて、遅れて買った。初動に貢献しなかった、申し訳ない、ちょっと悔いています。そして『天獄パラダイス』は本日発売の『まんがタイムきらら』にて最終回を迎えました。ちょっとしんみり。そしてお疲れさまでした。これまで楽しい時間を過ごすことができました、ありがとうございました。
『天獄パラダイス』のよかったところ、ウニとナルニアの可愛かったところ。ヒロイン美愛を通じて、間接的に、仮想的に、したわれ、なつかれ、そして愛でるところのできるところ。愛し愛されるということは、本当、人の仕合せの源泉であるのだな、それが実感できるほどに三人の関係はあたたかで、やわらかで、読者としてしか参加できない身でありながら、心が緩んで、優しい気持ちになれる、そこがよかった。けど、よさはそうしたプラス面にのみあらわれるものではありません。
『天獄パラダイス』のよかったところ、仕合せの向こうに、切なさや寂しさがあるとはっきり描かれていたところ。いずれ別れがくる、そのことを誰もが知っていて、時に意識する。させられる。そしてそれは今の関係を思うきっかけとなって、切ないね、切なかった。だって、みんなのことが好きだって、あらためて確認させられるわけですよ。別れは不可避である、それはわかってる。けどわかっていても感情はどうにもならないじゃないか。そうした切ない思いが、波のように押しては返すのですね。そしてその度に、今のこの仕合せな関係を愛おしく思う、少しでも長く、この仕合せが続いてくれるよう願う。その感情が、読者である私にも伝わってくるのですね。切なさが、寂しさが、ことさらに仕合せな気持ちをかき立てて、ああ、これはただ可愛い、楽しいだけの漫画ではありませんでした。
描かれていたもの、それはつまり感情であったのだと思うのです。心の動く様、誰かを好きになるという仕合せが、不安や嫉妬といった負の感情を生みだすことにも繋がる、そうしたことが描かれていたと思います。しかしこうした場合、どちらかだけはないのですね。仕合せが大きなものであるほどに、不安もまた育ち、私たちは日頃そうした不安を日常に紛らわせ、意識しないようにしていますが、この漫画の登場人物たちには、それが具体的な心配として提示されていたわけで。だから、紛らわすことなどできなかった。だから、なるたけこまやかにそれは描かれることとなり、いわばそうした感情、思いのバランスが漫画の中核になっていました。天秤は吊りあっていなければならない、漫画の最初に提示されていたこと、これはすなわち仕合せと不安の釣り合いでもあったのですね。
感情の絡まりあうところ、ウニを連れ返すべく追ってきたルルラの美愛に寄せる思い、その一連の流れなどは、甘く、苦く、押し寄せる感情は確かな重みをもって、胸をうずかせたものでした。丁寧な筆致でした。派手な盛り上げはいらないのかも知れない。静かであればこそ届くものもあるのだろう。そう思える、好場面でありました。
なら、最終回だってそうなんです。甘さ強めであったけれど、そこには描かれたこと以上の苦さもあったはずで、そうしたところに思いをはせることができれば — 。そして、そのように思ってしまうのは、これまで描かれてきた皆、五人の関係、繋がりに説得力があったればこそ。ああ、寂しいよ。けど、その寂しさを踏み越えることが、生きるということなんだろうなあ。そして、寂しさの深く兆すからこそ、仕合せや喜びも強く大きなものとなるのだろうなあ、そのように思ったのでした。
なお、『天獄パラダイス』、2巻は出ないとのことです。最初に私の悔いたこと、遅かったかと思ったこと、それはすべてこの事実に由来しています。それでも以下続刊と書かずにおられないのは、私のあきらめの悪さあるいはそれを望む気持ちのためかと思います。ですが、続きは同人誌にてまとめられるかも知れないという話ですから、もしそれがかなったならば、きっと購入したいと思います。そうした可能性を作ってくださったこと、ありがとうございました。また、二度目になりますが、楽しかったです、ありがとうございました。
- 凪庵『天獄パラダイス』(まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
- 以下続刊
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