2009年3月22日日曜日

オリジナル・リガチャー Tシリーズ

Saxophone mouthpiece with T Series rigature広島交響楽団でクラリネットを吹いていらっしゃる高尾哲也氏の考案されたリガチャー、Tシリーズを使いはじめてから一ヶ月がたちました。これくらい使うと、使いはじめの頃の目新しさというのも消えて、これが普通、スタンダードと感じられるようになってきます。といったわけで、評価するにはよい頃合いかも知れません。なにしろ第一印象が鮮烈すぎました。比較するまでもないほどに良い。それまで使っていたリガチャー、ありゃいったいなんだったんだと思うほどによかった。その違いは、近くで聴いているものにも容易にわかるくらいに明瞭で、あんまりにすごいから、録画してニコニコ動画にでも出そうかと思ったくらいでした(実現しませんでしたけど)。とまあ、これが第一印象。それがひと月たってどうなったのか、それを書いていきたいと思います。

私がここひと月の間、主に吹いていたのはソプラノサックスだったのですが、そちらでは完全にこれがスタンダードとなりました。しめつけられているといった感じのしない、自由な鳴りがしているという印象は、使いはじめの当初から今も変わりありません。

リードが充分に振動し、それが楽器全体、管一杯に伝わっている、そうした印象です。中低音域は豊かで、高音に向かってもやせない。充分に息が入る、その要求されるぶんを供給できれば、実に素晴しく鳴る。けれど、私はちょっと吹き過ぎているようです。吹いている私は気付かないんですけど、まわりからすると、かなりうるさく鳴っているみたいなんです。なにせ、いくらでも入る感じがするものですから、ちょっとやり過ぎなくらい吹いてしまう……。これからは響きを意識しながら音をまとめ気味に吹くことを考えるとよいように思います。

アルトサックスでは、これまで吹いてきたリガチャーの印象がいまだ拭えず残っていますが、おかげでまだTシリーズリガチャーの鳴りのよさを意識して吹くことができます。スケールを吹くとき、下降時、タンポの閉じていく感触が心地良く感じられる。ぽこんぽこんとタンポが音孔を打つときの響きさえ感じられる、というのも変な話と思いますが、それだけ音の響きが豊かということなのかも知れません。室内のいろいろに響いて返ってくる、その感触がこれまでと違って面白い。響きが豊かになっているのは少なくとも確か、大らかに鳴る。それが気持ちいいです。

ただ、このところソプラノばかり吹いていて、うまくアルトが吹けずにいます。加えて、アルトは構え方からアンブシュアまで変更している最中なので、迷い迷い吹いていて、いや、そんなの言い訳なんだけど、ちょっと欲求不満ぎみです。鳴りのポイントがいまいち掴めない、鳴らしきるだけの息も入れられずにいる、そうした状況を解消しようと頑張るあまり吹き過ぎになっているようで、これはちょっと悪い傾向かも知れません。もっと自然体で吹いても充分に鳴るはずなんです。この状況を抜けてコンディションが安定すればもっと普通に吹けるだろう、そんなこと考えてますが、これはリガチャーとは関係ない話ですね。

関係ないついでに書きますが、響きをうまく作れるようになったら、私はビブラートをとっぱらうつもりでいます。すでにソプラノでは実施しているのですが、ビブラートは実に便利な小細工で、こいつをかけてやれば、なんとなく表情をつけることができる、それも過剰につけられる。でも、ノンビブラートでやってみればわかることですが、ビブラートに頼って吹いていると、フレーズ中に現れる長く伸ばす音、それを音楽的に吹けなくなってしまっていて、こりゃ駄目だと思った。だいたいビブラートは20世紀に入る以前はほとんど使われてなかった。真っ直ぐな音で表現するのが当然だった。ビブラートなしで、表情豊かに吹けないようでは駄目だ。そう思ったので、アンチビブラート教を設立し入信することにしたのですが、アンチビブラートの神さま、どうしても破戒せずにはおられない私をお許しください。

リードを選んでいる時に特に感じるのですが、これまでリガチャーで頭打ちになって消えていたところが出るようになっている。これまで微細な違いと思っていたところが、意外や大きく違っている、そんなことがわかるようになったりもして、ということはマウスピースを選ぶときに、前のリガチャーでなくこれを使っていたら、もっと明確にその違いがわかったんじゃないのか? と、これは今さらいっても仕方のない話。でも、楽器でもマウスピースでも、リガチャーでも、なにかが足を引っ張っている間は、他の要素の善し悪しもはっきりせず、もやもやの中に埋もれてしまうものだということをあらためて確認したように思います。よい楽器、マウスピース、リガチャー、リードが揃ったら、あとは私が足を引っ張らないよう、がんばらないといけなくて — 、難しいな。私はそれほどうまくないんですよ、実際の話。

ネガティブな話はさて置いておくとしても、楽器演奏というのは、最終的には奏者の差なのだと思っている私には、その差があらわれるまでの段階でオミットされるところが少ないに越したことはなく、そういう点ではTシリーズは実に優れたリガチャーであると思っています。これは、楽器やマウスピースのよさを引き出すリガチャーではなく、ただただ邪魔をしないリガチャーであると思います。それはきっと奏者に対しても同じで、だから最後には奏者が頑張るしかない。言い訳をさせない、そんなTシリーズリガチャーは、こと学習者にはよいリガチャーなのではないかと思います。

Saxophone mouthpiece with T Series rigature

Tシリーズリガチャーは、リード側から見るとこんな感じです。

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