この人の本を見掛けたら、とりあえず買う。本好き、漫画好きは、そういう作家のひとりやふたり、いるものだと思うんです。もちろん私にもあって、というか、ありすぎて困ってるんですけど。もう、毎月毎月、なんでこんなに買ってるんだろうって、自分でも疑問に思うほど買ってる。中には新しく買いはじめるものもあるけれど、ほとんどは継続であったり、作家買いであったり。今日とりあげる『未確認幼なじみ』、これも作者買いです。作者は陸乃家鴨。もちろん最初から作者買いだったわけではなくて、表紙買いからのはじまりです。とりあえず買ってみるかと思って読んだら、それが結構よくってですね、既刊買いに走って、そして今や作者買い。ああ、よくあるパターンです。
『未確認幼なじみ』。十数年ぶりに故郷に帰ってきた大地、彼が主人公。子供時分を過ごした小学校、すでに廃校、その離れに寝起きして、夜は星の観測をする。そして出会うは、幼なじみたち。1巻の帯によれば10人。え? けど、そうだっけか?
私達の幼なじみは
美律 と
つっちょん
林子ちゃん旺と海と
火弥子私達を入れても8人だけよ
ここに、大地があの13齢の月夜に出会ったメイが加わる。それで9人。じゃあ、あとの一人は誰!? ああ、大地の弟月矢か。これで総勢10人、出揃いましたね。なお、名前の出てないのは水音。大地の幼なじみのボーイッシュな少女。今は小学校の教員をしています。
この漫画は、ありていにいえばエロ漫画です。月の照る夜に大地が再会したのは、かすかに記憶に残るメイ。大地はメイと関係を持ち、それからは溺れるようにメイにはまっていきます。
そうした関係を描きつつ、背後には廃校の取り壊しなど、別のストーリーを進めていって、この二軸構成は実にエロ漫画的です。エロ漫画だから、きちんとやるべきことはやっとかないといけない。けれど、エロ漫画だけど、エロだけじゃつまんない。それで、エロとストーリーがふたつの軸になって、それぞれ展開していくのですね。しかし、そのストーリーの進むにつれて次々再会していく幼なじみたち。そして、大地は次々彼女らと関係を持って、なんとうらや、ゲフンゲフン、ふしだらな! 容姿、性格を違えた美女をいろいろ取り揃えて、基本女性主導でことにいたる。実に都合のいい展開で、私の陸乃家鴨がいいと思う理由はおそらくここにあります。あんまり露骨でなく、嗜虐的でなく、ましてや強要ではなく、ラブラブ?
まあ、露骨であるかどうかは別として、嗜虐的でない、強要でもない、ここ重要です。けれど、基本受け身である大地が、好いた相手には積極的に踏み込んで、ああ、これだ。好きなら好きと、はっきり態度でしめして欲しい。けど、私以外の女と関係持つときは、できれば乗り気でないといいな。そんな理想が向こう側から伝わってくるようで、ああ、これはそうだ、つまりは少女漫画的構図なんだよ。私以外の女にももてる男であって欲しい、私以外の女と関係するときでも心は私に置いておいて欲しい。それを男主人公でエロに振ると、こうなるのかも知れません。
さて、以上は男のロマン。この漫画には他にもロマンがあって、それは、ひとつは天体に対するロマン。メイの謎について踏み込んでいく過程であきらかになる、彼女がメイであった理由。あれはしびれましたわ。うわ気付いてなかった。あんなにヒントはいっぱい出てたのに。いっときなどは、そのヒントを掴みながらも、エロに夢中で手放してしまって、しかしこの謎が深まっていく段になると、逆にエロはふっとんでしまって、いや謎解きが楽しかったからじゃないんです。私の心をとらえたのは、主人公たちのロマンスでした。彼彼女らの心に揺れる思い。それがひとつ明らかになって、そしてひとつの思いが消えようとして、でも消してなるものか。そうした思いが、確かでないものを確かなものと変えるんですね。あれは、いい話だった。すべての流れがここでひとつになったと感じられた。叙情にあふれて、切なさも愛おしさも、これでもかと込み上げて、ああこの漫画は外れゆくものを抱きとめようという思いに満ちている。やさしくて、あたたかで、とても幸いな漫画。そして、私は、愛というものは等しく、名前のない「何か」であった誰かを、他の誰でもないあなたに変える営為なのかも知れない、などと思ったのでした。
最後の情景、それもまた素晴しく幸いなもの、余韻を残して豊か、私はその光景をちょっと嫉妬まじりで見送るのですが、読み切るまではそれは蛇足なのではないかと思っていた。けれどそうではありませんでした。ああ、陸乃家鴨の漫画はいいな。そう思って、なおさら好きになった。それは、確かにあなたを受け止めるよという力強さをもった優しさがあるからなんではないかな、なんて思うのですね。ラストに向かう流れに、そして最後の1ページに、そう思わせるだけのものがあったのですね。
引用
- 陸乃家鴨『未確認幼なじみ』下 (東京:少年画報社,2009年),83頁。
- こととねお試しBlog: 少年少女は××する
0 件のコメント:
コメントを投稿