まさか、このタイミングで『ひかるファンファーレ』が単行本化されるだなんて、まったく予想だにしていませんでした。昨年末に『うらバン!』が発売されて、やあ嬉しいなあと喜んで、そしてたまたま眠らせていた楽器を復活させた、それが大きかったのでしょうね。勢いで『ひかるファンファーレ』についても書いた。そしたらなんと単行本化ですよ。わあ、早まった。そう思った。思ったんだけど、まあ何度書いてもよいものはいいよね、ってわけで、『ひかるファンファーレ』は本日発売です。実をいうと、待ちに待った気分。早く今日という日がこないものか、心待ちにしていた。それは、またこの漫画を頭から読み返したい、その一心であったのですね。まずはそれが叶ったこと、それを喜びたいと思います。
『ひかるファンファーレ』は吹奏楽部にてチューバを吹く女の子、山田ひかるが主人公。背が低いのに、なぜかチューバに抜擢された。現実問題として、女の子がチューバに回されるなんてそうそうないよな、って書こうと思ったら、作者がチューバ経験者らしい。って、うわあ、こんなことありえないなんて、知ったようなこと書いてなくてよかった。というか、作者は女子校出身ですか? けど実際、女性で中低音管楽器をやる人なんてざらにいるものなあ。楽器解体全書でも、チューバ吹きには小柄な女性も多いんですよ
といわれているから、『うらバン!』鈴杉冬美や山田ひかる、彼女らは別に珍しがられるような存在ではないのでしょう。ということで、反省しました。一種偏見を持っていたことを反省しました。
この漫画には、作者の経験談が生かされているという話です。おそらくはそのためなのでしょう。ああ、これはあるあると共感できるような話があちこちに見られまして、私にとっては荷台乗車が実にそんな感じ。トラックの荷台に人を乗せるのは本来なら法律に反するのですが、道路交通法第五十五条に定められているとおり、当該貨物を看守するため必要な最小限度の人員をその荷台に乗車させて運転することができる
んですよ。しかし、トラックの荷台は最悪の乗り心地です。発車停車のタイミングがわからない。いつ曲がるかもわからない。そのたびに揺れ、動く大量の楽器。そのほとんどは固定されているとはいえ、すべてがそうだとは限らない。よって、押し寄せる楽器に翻弄され、現地に到着するころにはもうへとへとになっている。私は短時間の乗車経験しかないけど、数時間乗った人に聞けば二度とごめんだという話。大荷物を運ばなくてはならない、しかもどれもこれも変なかたちをしたケースに入ってるものですから、安定しない。そんな荷台に荷物もろとも放り込まれて、大変な目にあったという人もきっと少なくはないでしょう。つうか、こうしたことも恒例のイベントとして楽しんでいたような気もします。ひどい目にあいながらも、それを楽しんでいたのです。
恒例のイベントといえば、定期演奏会があって、青少年コンサートがあって、高校野球の応援があって、吹奏楽コンクールがあって、秋には地区の合同演奏会があって、文化祭での発表があって、あとは体育祭の入場であるとか、卒業式での校歌演奏、そして年度が変わって、入学式、新入生歓迎会、こうして振り返ると結構イベント盛り沢山ですね。他にも、西京極球場でマーチングやったこともあった(砂ぼこりが嫌だった)。国体のファンファーレもやったっけ(池谷選手、西川選手がきてたはず)。あと、人によってはアンサンブルコンテストに出たりもして、とにかく忙しかった。吹奏楽部には、盆暮れ以外に休みはないのですよ。けれどそれは充実していたということでもあるのでしょうね。『ひかるファンファーレ』を読むと、そうした昔を思い出して懐かしくなります。
吹奏楽コンクールは、吹奏楽部における夏の一大イベントであります。私の住んでいた地域では、まず府大会があって、次に地区大会、そして全国大会と続くのですが、ええと、私たちの夏は府大会で終わるのが恒例だったよ? 姉の代では府大会で銀を取ったそうですが、私は銅ばかり。いや、中学の頃に一度だけ銀を取っているはず。って、こう書くとまるで府のベスト2ベスト3を争う強豪校みたいですが、実はそうじゃない。吹奏楽コンクールの賞は上位3団体のみに与えられるものではないのです。
金銀銅は演奏の善し悪しによって与えられるのですね。たいへんよくできましたが金、よくできましたが銀、銅にはふつうですとがんばりましょうが含まれます。きっと、がんばりましょうだったんだろうなあ……。というのは置いておいても、私たちにとっては夢の関西大会、参加したこともあるんですよ。ええと、スタッフとしてですが。私は舞台そば下手側出入口のドアを守る係であったのですが、なんの手違いがあったか知れませんが、楽器の搬入をちょうど私の守る出入口からすることに急遽決まって、おかげで打楽器類、大型楽器を大量に搬入することになって、いやあ、あれは大変でした。けど、それもまたいい思い出です。懐かしいなあ京都会館大ホール。
バイトの話はどうでもいいんですが(もちろん個人にお金は入りません)、吹奏楽コンクールの独特の緊張感、あれは今思い出しても格別のものがあって、リハーサルは別館で一回通してバランスを見る程度。つまり、ホールで吹くとどうなるかは本番にならないとわからないのです。その一発勝負のドキドキは、定期演奏会の非じゃないね。いや、定演は定演で緊張するんだけどさ、けどまだなごやかな雰囲気もあったりするわけですよ。でも、『ひかるファンファーレ』にもあったように、コンクールは分刻みでの進行です。別館であわただしく最終調整をして、その後、楽屋に移動、人がいっぱいで座ることさえできやしない、そんな場所でざっとチューニングの確認をして、そしていよいよ本番です。案内されるままにステージにのぼり、着席、チューニングという名目の音響確認。そして、演奏が始まる — 。
二年生の時に、ソロをやったんだわ。大ホールの向こうにどんどん音が吸いこまれていく、そんな感覚に、ああ、非力だなあって思ったことを思い出します。そして、終演後の講評、ソロについての言及があって嬉しかったなあ。もうすっかり忘れていたような話。けれど、こうして思い出せば、まるでついこのあいだのことのよう。思い出さえ鮮かなのは、きっと『ひかるファンファーレ』のおかげ — 、いや、すんません、漫画に関係ないことばかり書いて、しかもこんな無理矢理なしめに持っていこうとして。けれど、こうして昔を思い出してしまうのは、『ひかるファンファーレ』に描かれることが、あまりに身近と感じられるからというのは本当です。もちろん漫画だから、フィクションだから、すべてをそうそう、あるあるとは思わない。けれど、そうした漫画の表現のなかには真実も沢山あって、それはただ私も経験したから、よくある話だから、という域にはとどまらない。まさに今、ひかるをはじめとする彼女彼らの場において生起する、そのような息衝きが感じられて、だから私はこの漫画にいいようもなくひきつけられるのでしょう。廃業したはずの管楽器に復帰しようと思った、そのことに『ひかるファンファーレ』、それから『うらバン!』も、まったくの無関係であるとは思えないのです。
- 田川ちょこ『ひかるファンファーレ』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
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