『正義警官モンジュ』が面白いのは、不完全さを残したロボット警官、モンジュの姿が、私たち人の生きるその様を映すからに他ならない、そのように思っています。人を遥かにしのぐ頑強な体と高度な情報処理能力を持ったモンジュは、自分の不完全であることに悩んでいる。それもうじうじと、めそめそと。しかし、自己の存在を疑い、過去に苦しみ、見えない未来に迷いながらも、もがくようにして日々を乗り越えていこうとする、その愚直で泥臭いモンジュの生き方がどうしようもなく胸に迫って、もうたまりません。この漫画は、間違えれば取り返しのつかない惨事を引き起こしかねない、そんなテクノロジーと共存するということを描いたものとして読むこともできるけれど、しかし私はこれを不完全である自分をみつめながら、一歩でも完全なものに近付こうとしてあがく人の物語として読みたいと思う。それはつまりは、私自身の問題としても読みたいと、そのように思っているのだと思います。
先日、こんなことをいってましたね。ほら、産総研のロボット、HRP-4Cに触れて書いた記事においてです:
私たちは、人間のそばに人の姿をした、人ではない友人を求めているのですね。それは、人の存在が暖かさをともに時に寂しさすら感じさせてしまうからなのか。もしかしたら、人では埋められない隙間にこそ、彼らヒューマノイドの活躍する余地があるのかも知れません。
確かに私たちは、埋められない寂しさを抱えるがゆえに、ロボットという友人を夢見るのかも知れません。ですが、ことロボットが不完全に描かれようとするとき、物語は私たちから友人、すなわちロボットの側に重心を移し、その不完全を克服しようとする、あるいは不完全ゆえに悩む姿をクローズアップしはじめるように思うのですね。そして、私はそうした彼らの、完全に近付きたいと望み、またなぜ自分は完全ではないのかと悩む姿に引き付けられてなりません。それは、所詮人の身である私も完全には程遠いから、つまりは彼らに同じ悩みを持つひとりであるからでしょう。不完全な彼らの悩みや迷いは、私自身のそれに重なります。彼らの葛藤に、人が自らの欠けた部分を充足させようとすることの意味を見ようとします。心に欠けたところがある、機能に欠けたところがある。もっとも人として基本となるところの欠損、それを埋めようとする彼らの試みとは、すなわち私たち人とはいかにして人であるのかという、根源的な問に直結するものであると思うのです。
『正義警官モンジュ』が問い掛けるものは、大きくあまりにも深い、そのように思います。あまりにも不完全なモンジュが、どう贔屓目に見ても完成されているとは思えない山岸巡査や神谷たちとともに歩んでいく。心ってなんだろう、信頼する、されるってどういうことだろう。自分のしていることの意味は、自分の存在する意味は。そうした答の得られようもない問い掛けが、シリアスなエピソードからも、そしてコミカルなエピソードからも浮びあがってきて、しずかに積っていきます。愚直な問い掛けは、心弱く純朴なモンジュの発するものだからこそ、不用意な重さを物語に残さず、しかし読むものの心にはしっとりとあとを残して、そのバランス! モンジュが人でなかったからこそのバランスがここにある。彼は不完全な人に比べてもなお不完全なロボットである、そうした前提が、自己という存在に対する苦悩を描いて、なお重く辛く苦しくなりすぎない、絶妙のバランスを実現させていると思えます。
けれど、モンジュの抱える問題が、どうでもいいものとして描かれたようなことは一度たりともありません。不完全 — 、発展途上であるものの抱える問題は、いつか克服される日がくるのではないか、そうした希望を感じさせながら、少しずつ変化していきます。その変化のかげには、モンジュに寄り添う誰かの姿があって、時にあたたかい。モンジュを支える誰かがいる、モンジュを守ろうとする人がある、そしてモンジュが人の心に寄り添うことで変わったものもあった。こうした相互の関係を描いて、より一層の深さ、暖かみを感じさせてくれるのもこの漫画のよいところで、それは不完全であるという事実は乗り越えられないまでも、より高いところにまで達することはできるのだ、ともに歩み助けあえる誰かがいれば — 。そうしたことを描くものであるからかとも思います。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第1巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2005年。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第2巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2006年。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第3巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2006年。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第4巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2007年。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第5巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2008年。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第6巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2008年。
- 宮下裕樹『正義警官モンジュ』第7巻 (サンデーGXコミックス) 東京:小学館,2009年。
- 以下続刊
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