2008年7月29日火曜日

御伽楼館

 コミックエール』は男の子向け少女マンガ誌。この、ちょっと思い切ったキャッチフレーズが一部で話題になった雑誌です。これの第一号が出た時に、怖いもの見たさというと失礼ですが、いったいどういう誌面であるのか、興味を持って買ってみたのですが、そうしたら思った以上によい雑誌、気に入ってしまったのでした。それがもう一年も前の話です。雑誌はその後も順調に発行され、そして、この度コミックスが出る運びとなりました。私の好きな漫画も出ました、出ます、きっと出ることでしょう。さて、出ればきっと買う、そう思っていた漫画が最初の刊行分に含まれていたので、早速購入しました。その一冊が『御伽楼館』。不思議な人形を巡る物語です。

人形店真夏の夜の夢の人形が見せる、不思議な世界の魅力。人形を借り受けたものの胸に秘められた思い — 、それはただ美しいばかりのものでなく、悔いや未練といったネガティブなものであることも多く — 、そうした思いが人形を通して取り戻されて、時にはやり直しに似た、あるいはただ自分に向きあうという体験をさせ、そのものの人生にわずかばかりの跡を残す。そうしたプロットが、感傷的に、そしてただただ美しく描かれて、素晴らしい。私ははじめてこの話に触れた時、そのよく作られた感じに感嘆して、けれど、その物語られる内容の毎回の工夫にこそ妙味はあると後に知ることとなりました。物語の中核にある人形そして人形店が、その存在感を主張しすぎることのないストーリー、上質であると思います。

描かれるのは、人形が見せる不思議で、ですが物語られるのは、あくまでも人形に関わったものたちの心のうちであるのですね。人形はきっかけ、チャンスを与えてくれる、それだけの存在なのかも知れません。だから、気付き、動き、変わり、つかんでいくのは、毎回の主人公たちであるのです。思い出される過去の記憶、うがたれる心、その描写は淡々として切なく、丁寧にラストまで紡がれて、そして最後にはきっと幸いな思いに昇華される。ちょっと綺麗すぎると思う人もいるかも知れません。でも、綺麗でなにが悪いんだろう。こうあって欲しいという願望、もしやり直せるなら、もしあの時の思いを伝えられるなら、そうした悔いが洗い流される。そうした物語は、確かに理想的に過ぎるかも知れませんが、だからこそこうした美しい夢として編まれるべきものであるのではないかと、私は思います。

誰しもが持つ悔い、思いに触れながら、それらを美しい夢に変えてしまう甘いおとぎ話、けれどそこには若干の苦さも残る、こうしたところが味だと思います。

  • 天乃咲哉『御伽楼館』第1巻 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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