行き付けの病院の待合には、集英社のレディーズコミック誌『You』が置かれていて、待ち時間に読んでいます。最初は『パティスリーMON』と『Real Clothes』の続きが読みたくって、けれど読んでいるうちにだんだんと手を広げていくというのはよくある話です。ひとつ、またひとつと、好みの漫画を見付けていって、そして『ステージママの分際で!』が始まって、これ、いいじゃないかと思ったのでした。作者は星崎真紀、『ひみつな奥さん』の人でありますね。私はこの漫画も好きで、単行本も買って読んでいたものですから、新作に興味を持ったのも当然であったかと思います。
『ステージママの分際で!』は、タイトルにもあるように、ステージママ、つまり子役の母親が主人公です。それこそ生き馬の目を抜くような業界だっていいますね。自分の子供を売り込むために、あの手この手で、ライバルを出し抜いてみたり、また子供に発破をかけてみたり。テレビでたまに、子役の裏側みたいなのが紹介されていますが、そういうの見るたびに、微妙な気分になってきた私です。だってね、なんだか自己実現を、自分で果たすのではなく、子供を使ってしようとする、そういう歪んだ自己愛が感じられたりもする世界みたいじゃないですか。そこにどうにも納得がいかなくて、って、ステージママをどうこういおうって話じゃないのでした。
私のような人間でも心地よく読めるように、ちょっとした工夫がなされています。それは、主人公藤枝珠子の造形で、彼女はそうした世界に興味を持たない人間として、どちらかというと否定的な人間として描かれているのです。けれどちょっとしたことをきっかけに、思いもしなかった未知の世界に飛び込んでいくこととなってしまう。そう、不可抗力なんですよ。ぎらぎらとした欲望に突き動かされる、そんな母親じゃないんです。ただ、夫の残した借金を返すために、また思いがけず見出されてしまった息子の才能に親心くすぐられて、あれよあれよと深く踏み入ってしまうわけですよ。
これは母親にとってのファンタジーなのでしょうね。自分の子供は一番だって思っている / 思いたい、そんな親心が求めるストーリーがここにあるのだと思います。けれど、あからさまに、うちのマオくんが一番なのよっ! ってやっちゃうと、なぬーっ、不遜なやつめ、ってなっちゃうかも知れないから、ちょっと控えめな母親にして、けれど運命の歯車はもう動き出しちゃったんだよ、大きな力に、魅力的だけど危険な世界に、巻き込まれ、翻弄されてってかたちになっちゃってるんでしょう。
そして、これから踏み込む世界を知らずにいる無力な母子、そんなふたりを助ける人たちの存在です。ふたりの前では悪ぶってみせる、ちょっと危険な匂いのする男。けど、根は純情なのか? あるいは過去に拭えぬ傷があるのか? 思惑はあくまでも隠されて、けれど彼はあの親子になにか特別な思いを抱いているようで、ちょっとミステリアス。足長おじさん的ともいえる、姿を隠し、ひそかに守ってくれている、そんな存在が憎いではありませんか。かと思えば、先輩子役の大塚凛々、その母親こそは油断できない匂いをさせるけれど、凛々はどうもマオを気に入ったみたいで、あれこれと、こっそりと世話を焼いてくれる、導いてくれる。こうした魅力あるキャラクターがふたりをサポートしてくれる、なんでなんだ、けどこれが変に心をくすぐるんですよね。うまいなあと思います。
『ステージママの分際で!』、本誌ではもうちょっと先まで進んでて、だから来月に2巻が出たりするのかな? けど、まだ謎は解かれる気配もさせず、未知の世界はまだまだ深く、どうなるんだ、マオとお母さんは! 目を離せない感じであるのですね。気付けば、マオとお母さんの応援をしてしまっている私は、すっかりやられちゃってるっていう感じで、ええ、心の底から楽しんでいます。先が、マオくんの将来が、楽しみでなりません。
- 星崎真紀『ステージママの分際で!』(クイーンズコミックス) 東京:集英社,2008年。
- 以下続刊
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