2008年7月19日土曜日

パティスリーMON

  私がレディーズコミック誌『You』で楽しみにしているもの、その筆頭にくるものはなにかというと、やっぱり『パティスリーMON』なのではないかと思います。ケーキ店で働く女の子、といったら失礼ですね、女性が主人公の漫画です。かつての家庭教師と再会したことをきっかけとして働くようになった、けれどその職場で巻き起こる人間関係の嵐に翻弄されて、ヒロイン音女はいったいなにを思うというのか。というと、なんかものすごいドラマティックなものを思わされますが、けれど実際に読んでみればわかります、地に足のついた、しっかりとした感情を描いていて、だから読んでいて取り残されるということがなく、いやむしろ、引き込まれてしまう、そんな深さがあると感じています。そして、先日発売された第8巻にて、その嵐がおさまりました。その時の風景というものが、あんまりに静かで、あんまりに幸いなもので、私の胸をどんと突いたように感じられたものですから、ああ確かな感情があると、そう思わないではおられませんでした。

和解、であるんですね。ちょっとしたことが発端となって、けれどそれは、その時には、どうしようもなく大きなものと思われて、それでいったんは離れてしまうことになった。どう考えても、離れる必要なんてないはずなのに、けれどその時にはそうならないではおられなかった、そういうことだったんだと思います。そして、その後は先ほどいった通り。新たな人間が入るたびに、軋轢が、不和が顔をのぞかせて、見ていてちょっとつらかった。MONというケーキ店が舞台、そのオリジナルスタッフがですね、あんまりにお人よしで、けれど新たに入ってきた人間も、皆悪い人ばかりというわけでなく、ただ、少しずつその思惑が違ってしまっていたということだったんだと思います。そもそもが新しく入ってきたのが音女でした。以前にはいなかった音女という人物が、働きかけるでもなく影響を及ぼした、その結果がこのしばらくの間吹き荒れた人間関係の嵐であって、そして翻弄されたのがMONのスタッフたち、オーナーシェフの大門で、土屋で、レオンくんで、タロウ、ジロウの兄弟で、そして音女だったのでしょう。けれど、風が吹けば強い草がわかるといいます。この嵐の去った後に残ったのは、MONのスタッフたちの性根のよさで、その信頼であったんだと思うのです。それがわかるエピソードが一段落をみせた時、ああ、いい連中だなって思ったし、いつも人間関係とはこうだったらどんなにかいいだろうと、うらやんだ。ええ、こういうことって現実にもあるんです。気のいい仲間がいて、また少々不和があっても、きっと仲直りできる。あの時の自分を振り返って、悪かったところは悪かったと、どうかしていたところはそのとおりに、納得して、向き合って、関係を新たなものとできる。めったにないけど、それだからこそ貴重だと思うんですけど、そうしたことを思い出しましたね。

MONにおける人間関係が不遇だった時、いったいどうなるのか、どう決着がつけられるのだろう、そんなことを思いながらも、どことなく気が重く感じられたのは、それがまるで他人事でないように感じていたからだと思います。楽しく仕事していたはずなのに、できていたはずなのに、いったいなんでこんなことになったんだろう。そして、あからさまな悪意が投げ込まれた時、なんでこの気のいい人たちが、こんなことで気を揉まされなければならないんだろう、自分のことのように気持ちが揺れ動いて、というのは、やっぱり私がこの漫画に描かれた人たちを好きだからなんだと思うのです。さっぱりとして、すごく魅力的だと思います。現実の人たちじゃない、そんなことはわかってるのに、なのにすごく親しく思ってしまう。こうしたことは、この作者の漫画を読む時にはしばしばあることで、だからもうたまらなくなります。近しく感じる人たちの苦しみや迷いはダイレクトに伝わるようで、それはつまり喜びも同じということです。だから私は、あの大門と土屋の向き合って交わされた言葉、あのシーンに、胸を締めつけられるほどに感じたのだと思います。他人事ではない、自分の友人がそこにいるというような近さでもって感じたのだと思います。

  • きら『パティスリーMON』第1巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2006年。
  • きら『パティスリーMON』第2巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2007年。
  • きら『パティスリーMON』第3巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2006年。
  • きら『パティスリーMON』第4巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2007年。
  • きら『パティスリーMON』第5巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2007年。
  • きら『パティスリーMON』第6巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2007年。
  • きら『パティスリーMON』第7巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2008年。
  • きら『パティスリーMON』第8巻 (クイーンズコミックス) 東京:集英社,2008年。
  • 以下続刊

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