出会った当初にはその価値がわからなかったものの、後に好きになってしまうということは往々にあります。例えばそれは『まーぶるインスパイア』などがそうで、最初はとにかく意味のわからない漫画、そのようにしか思えなかったのが、いつしか面白く思うようになってきた。単行本で読んで化けた。その内容の連続性、密度の高さに驚いて、それからは連載で追いながらも、いつか単行本の出ることを楽しみにするようになったのでした。それはやはり毎月の連載では話の繋りがわかりにくいからなんですね。だから、連載では、いったいなにが飛び出てくるかわからないというインパクト、わけのわからなさ、トリップ感を味わい、そして単行本では、緻密に描かれる日常の出来事を流れに沿って読む、その面白さを味わう。このように、表現の媒体の違いによって、ひとつの漫画で異なる楽しみかたをしています。
しかし、連載を読んでいるときにはわすれてしまいがちなのですが、この漫画は、パソコン購入資金をるくはがちびちびと遣い果してしまうまでを描いているんですよね。親から渡された資金、中学生にとっては大金、それを買い食いやらなんやらでちまちまと消耗させてしまう、その愚かしさ。けど、それは大人でもあんまり変わらないのかも知れません。手元にお金がある、たんまりとある、それが気持ちを大きくさせてしまって、結果、無駄な消費をしてしまう。こうしたことは、誰しも覚えがあるんじゃないかと思いますが、いざそのときという段になって、しまった遣いすぎてたっ、気が付いて、後悔先に立たず、どうしよう……、困ってしまうわけです。果してるくはが後悔するのは、今は先送りしている金銭問題を、その身に引き受けざるを得なくなる日はいつなのか。すごく楽しみでありますが、この漫画の進行速度から考えると、来年か再来年か、かなり先のことになりそうな気がします。
というのも、この漫画、連載が開始されてもう二年になるのに、作中ではまだ一週間そこそこしかたっていないんです。第1巻で自転車通学を始めた、それが2巻終了時点でまだ4日目とかいっていて、とにかく時間のたつのが遅い漫画なのです。その原因はあきらかに描写の緻密さ。普通なら放課後に買い物にいくというエピソード、ひと月ないしふた月ほどで終わるところが、この人の場合半年くらいかかります。いく途中でひと月、現地でふた月、帰りでひと月、それが別キャラで展開されるから、結果半年ってな具合でして、しかしそれはまどろっこしくはないのかと聞かれれば、ちっともそんなことがない。特異なことです。
停滞しているように感じないのは、その回ごとに注視して描かれることが異なっているためでしょう。毎回に核となるようなエピソードが切り出されて、クローズアップされるのですね。しかし、その注視されることのあまりな偏り、それは特筆もので、しかも狂乱といっていいくらいの盛り上がりを見せて、いったいこの熱中とはなんなのでしょう。別に特にたいしたことでもないというのに、想像力は白熱する。それは時には胸であり、時にはよだれであり、時には車内で居眠り、もたれかかってくる女子中学生に心乱されまいと奇行に及ぶ男性の内面描写であり、その描かれようはとにもかくにも大げさ。しかし、その大げささがおかしくて、なんでこんな風に表現できるんだろう。一種の天才であると思います。
- むねきち『まーぶるインスパイア』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2008年。
- むねきち『まーぶるインスパイア』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2009年。
- 以下続刊
0 件のコメント:
コメントを投稿