佐々木倫子の新作はテレビ局を舞台にしたものらしい、というのは聞いてはいたのですが、具体的にどういうものかはまったく知らず、そうしたら本日ですか? 単行本が出ていました。タイトルは『チャンネルはそのまま!』。北海道の地方局に入社したお嬢さんが主人公のコメディで、実に佐々木倫子らしい漫画であります。憎めない変わりものが常識人を振り回す、そうした構図は名作『動物のお医者さん』を彷彿とさせて、しかし『動物のお医者さん』と決定的に違っているのは、その変わりものが主人公であるというところでしょう。ちょっと『おたんこナース』に似ているかも知れません。ですが、『おたんこナース』は医療ものであったため、似鳥ユキエの迷惑度にも自ずと限界がありました。ところが今回はテレビ局もの。ヒロイン雪丸花子にリミッターは設定されていない、ように思えます。
そもそも雪丸花子というキャラクター、そのものはじめっからバカとして設定されていて、なにしろテレビ局に入れたというのもバカ枠とやらがあったから。もちろん、そんなものが現実にあるかどうかは知りません。けれど、昔からまことしやかにそうした枠があるとかないとかいわれてきた、ような気もしますが、それって試験は通り抜けてきたけれど、どう考えても使いものにならない、そんな新人を腐して、あいつはバカ枠採用だっていってただけなんじゃないかと思ったりもするのですが、でもまあ、生物というものは集団になると、ある一定の割り合いで怠けものが出るようにできているらしいといいますし、山本夏彦も、会社というものは一握りのできる人間が、残りを養うもんなんだ、出来ない坊主がいるのは当たり前だなんていっていました。だから、この雪丸花子、彼女こそは北海道☆テレビにおける、出来ない坊主なのでしょう。
しかし、確かに雪丸花子は出来ない坊主であるのですが、それでも彼女の活躍、というか他のスタッフの足を引っ張ってばかりのところも多いのだけど、そんな中に思いがけないヒットがあって、これは雪丸がいなければ得られなかった絵、得られなかった情報だ。そうしたプラスの側面も描かれているから、このあまりに駄目な娘のあまりに駄目なふるまい、仕事ぶりも許せる気になるのでしょう。ってのは、やっぱりちょっと、この人どうだろうなんて思うこともあったりしたからで、簡単に覚えられるものを覚えないというのはただの怠慢としか思えない。覚えられないなら覚えられないで、メモをとるなり、対応策もあるだろう。それを講じもせず、何度でも同じ失敗を繰り返すのってどうよ。いや、わかってるんです。そうしたところ、雪丸のへっぽこなところを楽しむ漫画だって。けれど、現実にしんどさを感じている人には、こうした描写は受け付けないかも知れない。だから、この漫画を頭から最後まで笑って楽しく読める人は幸いです。きっとすごく健やかな精神をお持ちであると、そのように思う私は、現実に少し疲れている模様です。
- 佐々木倫子『チャンネルはそのまま!』第1巻 (ビッグコミックススペシャル) 東京:小学館,2009年。
- 以下続刊
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