『キミとボクをつなぐもの』は、ご存じ荒井チェリーが『まんがタイムきららフォワード』にて連載していた漫画であります。芳文社では主に四コマを描いている作者ですが、これは掲載誌の関係もあって、コマ割り漫画でありました。連載の開始されたのは2006年。二年近くかかって完結した、こうして振り返ると意外に息の長い連載であったのですね。内容は、当時の流行を受けたのでしょうか、生まれ変わりものです。ひょんなことから前世の記憶を取り戻してしまった美少女浅川真雪が主人公伊達朝陽に迫ります。といっても、特段オカルトに走るわけでもなく、というか、作者はそちらの方面に関しては割と冷淡な感じであるから面白い。物語の都合から生まれ変わりは肯定されてしまうのだけど、序盤においてはやれくだらないだ、やれおかしいだ、おそらくは作者の地が出ていて、そうしたリアリスト的視点と少しオカルトな物語が、融和するでもなく進んで、なんとなく混ざり合って解決した。そのような構造が、煮え切らないといえば煮え切らない、けれどその曖昧性もまたこの人の味なのかも知れないと思われるラストでありました。
物語は、最初にいいましたとおり、前世の記憶や生まれ変わりを扱うオカルト志向。前世を見通す能力を持った少女も出てくるなど、描く人が描いたら、きっと強烈なやばさを感じさせるものになったかも知れないような話であるのですが、しかしさすが荒井チェリーというべきでしょうか、結構なあっさり風味にしあがっています。ただ、恋愛を扱ったコメディとしても少々薄味という感じもしますが、それはこの人の作風でしょう。他の連載でも、誰かが好きとか嫌いとかいいだしたりしているのに、恋愛ものにシフトしたりする気配はありません。恋愛となると、その方面にのめり込むかのように没頭させてしまう作家もありますが、荒井チェリーに関しては、恋愛至上主義という考えなどは露ほどもないのかも知れません。
以上のようなわけで、前世の因縁がからみあう恋愛のドラマティックを期待する人にはおすすめできない漫画であります。浅川に翻弄される主人公にしても、前世の記憶や過去の関係に悩まされながらも、実質は自分の魅力にも相手の気持ちにも鈍感である浅川の性格に手を焼いているという感じです。こうした印象が、オカルトを題材にする漫画でありながらも、そうした雰囲気に沈みこむまでには至らせないのかも知れません。あくまでも軸足は現在の彼らの関係にある、現在の彼らの気持ちに置かれているってことなのかも知れません。
生まれ変わりもの、前世ものといえば、私たちの世代ではどうしても『ぼくの地球を守って』が思い出されます。あれは、前世とその記憶に翻弄される少年少女を劇的に描いて、強烈な印象を当時の読者に残しました。ちょっとした社会現象として扱われた、全国紙が前世を求める青少年を特集するくらいでありました。そしてその物語は、登場人物たちに、前世を乗り越えさせることで完結したのでしたっけ。
『キミとボクをつなぐもの』もそうした道筋をたどって終結して、それはこと前世というものを扱うかぎり、こういう決着しかありえないということなのかも知れません。あるいはまったくの対極に振れて、前世に、因縁に飲み込まれるという方向にいくのでしょうか。しかし、この漫画は、過去は過去として、それらを乗り越えさせる方向に進みました。前世は現世における出会いもろもろをうながしはしたものの、現在の物語は現在の彼らが紡ぐのだ、そうした前向きな終わりかたをしてみせて、それは私は、前世などというオカルトに振り回される人もある現在における、健全のひとつのかたちであると思います。
- 荒井チェリー『キミとボクをつなぐもの』(まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ) 東京:芳文社,2009年。
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