2009年1月28日水曜日

はずむ!おじょうさま

 『はずむ!おじょうさま』をはじめて読んだ時、それはそれは当惑したものでした。ヒロインは名家のお嬢様はずむ、少々浮世離れしたお嬢さんであるのですが、もしそれだけなら当惑するようなことはなかったはず。そう、特異な設定があったのです。それは、ドキドキすると胸の谷間に物が挟まってしまう呪いがかかっているという……。頭を抱えるような馬鹿さ加減であります。当時、きらら系列誌ではちょいエロが流行していた、そんな背景があったとはいえ、それはいくらなんでも無茶すぎるだろう。エロとしては直球だし、正直なところいいますと、あんまり露骨にエロを押し出されても困ります。そんなわけで、最初はあまり乗り気ではなかったんです。ですが、それがいつしか楽しみに思えるようになって、それはいったいなにが変わったというのでしょう。

変わったもの、まず第一には私自身でしょう。慣れたのだと思います。単行本で最初から読みなおして、別に嫌悪感のようなものはなく、だから当初は特異で異質に思えたものも、いずれ慣れて楽しく読めるようになる。そうした傾向は確かにあったと思います。けれど漫画も変化していました。ちょいエロから無理目なエロの要素が少なくなっていきました。その反面、馬鹿さ加減は上向いて、それにともない面白さも増していったと感じられて、はたしてこのネタをどう受けとめればいいのだろう、微妙に迷う、そうした落ち着かなさ、ぎりぎりで踏み止まるいたたまれなさが、なんともいえないおかしさとなって、ひたひたと寄せては返す。それがいつしか癖になってしまっていたのですね。

馬鹿さ加減、そうした要素を一身に受けることとなったのは、はずむに仕えるワタルでありました。はずむお嬢様のことを第一に考える少年執事、であるのですが、この人、結構自分の欲望には忠実で、それからちょっと度量が狭い。そういうところは結構好みであったのですが、この上、中盤から後半にかけては変態的なコスプレさせられるはめに陥って、しかしその微妙さ加減はすごかった。キャラクター紹介にてコスプレ一望させられて、あらためてすごさを認識したというか、おそるべき破壊力です。ただ見るだけで笑ってしまうほどで、しかも本編では、それが動いてしゃべって、正直、どのようにいいあらわしたらいいかわかんないんだけど、面白くって、しかし本当にどうコメントしたらいいかわかりません。ナンセンスきわまりない、その異様さ、奇矯さ、ファニーさに、心奪われました。それがひどいありさまであると、わかっていながらやっている、しかもなんだか堂々とやっている、そうしたワタルの姿にときめくものがありました。

けど、思えばそうした馬鹿な振舞いも、お嬢様大事、その一心であったんでした。ワタルと、そしてワタルとともにはずむに仕え、ワタルにひどい役割りを押し付けるメイド慈美。ふたりともに変わりものであるのですが、特に慈美がかなりのものなのですが、そのふたりがはずむと一緒にいる、そうしたことの理由がわずかに語られたかなまら君の回、あれはよかった。はずむを心配し、はげまそうとして、ただやりかたがアレなだけで……、そうした様がいつもは笑いになっている。けどそれは、本当はやさしさであるんだなと伺わせて、いや、別になにも、そんなにいい話にしようって風じゃなく、あくまでもさりげなく、けどそうしたさりげなさがなおさらよかったのでした。

『はずむ!おじょうさま』、これはちょっとおすすめできない漫画です。けれど、私は好きでした。終わった時、残念だなと思った。まさか単行本にはなるまい、そう思っていたら一冊にまとまって、これは本当にありがたいことだと思いました。願わくば、売れてくれるといい、そう思っています

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