2007年12月7日金曜日

ニッポンのワカ奥さま

 一郎さんの奥さんは、和歌さんという名の和装美人。風流な人、粋で貞淑、まさしく良妻というにふさわしい。家事は完璧、物静かでその所作振舞いも美しく、けれど実は意外に大胆。家事に、趣味に取り組む様は、ラジカル、アヴァンギャルド、アグレッシブ。手を抜かず、脇目も振らず、常に全力投球かと思えば、たまには失敗もして、それにすねちゃったりするところなんかがこのうえもなく可愛らしく見えまして、ああ一郎さんは仕合せものだなあなんて思うのです。あ、いや、テレビ買うの許してもらえないんだけどさ。でも、そんな些細な不満があったとしても、恋しい妻と寄り添って過ごす時間を持つことができる、日常の些事に紛れて気付かずに過ごしてしまいそうな、季節の、日常の趣きをともに感じ、愛でることのできる、その方がどんなにか幸いであろうかと、そんなことを思う。漫画としては日常もののギャグコメディなんだけれど、どうもそれだけではない情緒 — 、和の情緒がほんのりと匂う、そんな漫画であります。

この漫画の連載が始まった当初、私はすっかりこの作者、木村和昭を新人だと思っていたんです。けれど、もうほんととんでもない、この人は80年代、少年チャンピオンにて活躍していたという、いわばベテラン中のベテランだそうでして、道理でうまいわけですよ。四コマはオーソドックスにして極めてシンプル、絵も構図も整理が行き届いていて、なによりもその安定感が素晴らしい。すごい新人が出てきたもんだ! とか思っていた自分の不見識ですよ。その漫画の土台のしっかりしているのは、重ねてきた年月のたまものというべきなのでしょうね。奇を衒うことなく、日常をよく取材し、丹念に練り上げられた四コマは、懐かしい風景を面白さとともに感じさせてくれて、本当に力強い。読み終えたあとに残る感触の確かさには、巧いというのはこういうことなんだろうなと、ただただうならされてしまいます。

けどその安定しているということは、ただ落ち着いているって意味じゃあないんです。読んでみればわかるのですが、この漫画、すごく新鮮味にあふれています。さすがに若い人とは思わなかった、けれどベテランとも思わなかったのは、そのフレッシュさのためだと今でも思っています。切れがいいんでしょう。ネタ自体はありきたりな、それこそ紋切り型であったりするのも多いんだけれど、それが小気味よくきびきびと展開されるから、お定まりと意識することなく、とんとんとんっと読んでしまう。そして、その運びの中に、強烈に効くものがちょんちょんと含まれているから、思わず釣り込まれて笑ってしまって、たまらん。

安心して読める安定ネタをベースに、つい頬を緩ませる穏やかなほのぼのから、シンプルに飛び込んでくるナンセンス、強烈にくすぐるシニカルまで、緩急自在に投げわけ翻弄してくれます。決して乱高下はしないという信頼感が、くつろいだ雰囲気を作るから、面白さも自然と膨らむのだと思います。気張らず流れに身を委ねさせる、これが身上なのであろうなあと思います。

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