2007年12月27日木曜日

Parker Sonnet Laque Ruby Red GT Fountain Pen M

 大学に入学したお祝いに、伯父がペンを贈ってくれました。パーカーの万年筆。フランス製、75と呼ばれるモデルで、ああ、それはそれは嬉しかったです。つや消しの黒軸、マットブラックですね。トリムやクリップは金メッキで、ペン先は18KのB(太字)でした。Bはちょっと私には太すぎるかなとも思われましたが、使っているうちに馴染むだろうと、システム手帳にセットして、いく先々で使っていました。けど、なくしちゃうんですね。忘れもしませんよ。吹奏楽の演奏会、アンケートを書くのに使って、そのままなくしてしまった。盗られたのかも知れないとも思ったけれど、でも結局は目を離した自分が悪いんですよね。ショックでした。なにより伯父にすまないと思って、いつか自分で万年筆を買えるようになったら買い戻そうと、そんな風に思ったものでした。

 Parker 75は残念ながらほどなく製造中止になり、結局買い戻す夢は果てました。調べたんですけどね、カタログからも落ちていまして、なので買うならちょっと上位機種になるSonnetあたりになろうかと、けどどうせなら最高機種なんて思うのは私の悪いところで、ということはDuofold、ええっと、五万円くらいからそれ以上するんですが、いくらなんでも高すぎらあという気持ちと、でも五六万なら払えなくもないよねという気持ちが戦って、しかしそれでも手を出さないのは、結局大切にしていた万年筆をなくしてしまった私が持つには明らかに不相応なペンであり、身に合わないものは持つべきではないという信条がためでした。

結局、学生時代に使っていたペンは、父のお下がりである、Parker 45、これは使って使って使い倒しました。75を失ったことがそれだけ悔しかったのか、代わりにということでもないんでしょうが、日用に使っていました。学生ですからね、講義のノートもこれですべて取っていて、院を出るまで使って、院を出てからも使って、ペン先がくたびれて、私以外のものが使っても線が引けない、それくらいになるまで使いました。

ブルーブラックのインクがお気に入りでした。かばんには常に替えのカートリッジが用意されていて、いつインクが切れても困らないようにしていました。それこそ筆記具といえばそれしか持ってなかったのですから、インクが切れたら終わりだったんです。人から借りるしかなかった。それは避けたかった。だから、インクの予備があるかどうかは常に気にしていた覚えがあります。それと、生活圏内のParkerインク置いてる文具屋の把握ですね。これ、重要でした。

私の通っていた大学だけかも知れませんが、教育実習の実習簿に記入する際にはボールペン不可、万年筆で黒インクに限るという当局からのおふれがあって、学生の不満の声に、あなた方も大人なんですから、万年筆の一本くらいは買いなさいと、そういうことがいわれていました。今だったら、使い切りタイプの万年筆型筆記具も売ってますが(使い切りを万年筆と呼ぶのには抵抗がある)、当時はそんな気の利いたものなくてですね、みんなどうしたんでしょうね。さて、他の人のことはどうでもいいとして、問題は私のペンです。万年筆は使っています。けど、インクがブルーブラック。これを黒に変えるのは簡単ですが、その場合万年筆をばらして、クリーニングしてと、大変です。いや、クリーニングはたまにやってましたけどね。でも、なんとかしてブルーブラックを使いたかった。大学当局に掛けあいまして、ブルーブラックは公文書や調印式でも使われているじゃないか、だから許可してくれと。その年の特例で、ブルーブラックは許可されるようになりました。翌年からは、黒あるいは青インクを使用することと決まりがあらためられて、次の実習では堂々とブルーブラックを使うことができました。なんでもいってみるもんだと思います。

 大学生ともなれば、万年筆を使うのがステータスだというような風潮は、残念ながら私の世代でもすでに廃れきって、見る影もありませんでした。大学の教員もボールペンを使う時代です。ましてや学生が万年筆でノートを取っているだなんて、本当に時代錯誤というか、アナクロな青春を送ったものです。大学を出てからは、すっかりコンピュータエイジ、私はコンピュータを使い、普段の用にはボールペンを使うようになりまして、もう万年筆の時代ではないと、そう自分に言い聞かせました。ええ、できれば万年筆を使いたい。でも、いったいどこでそれを使うんだ。手紙書くでなし、文書はほぼコンピュータで作成している現在、そもそも筆記具の出番がない。いらないだろう、万年筆なんて。ただ手にしたいだけじゃないか。使われない道具こそ不幸であるとわかっている癖にと、それでも折りに万年筆をと考えるのは、ただのコンプレックス、懐古趣味じゃないのかと、自問自答して、あきらめてあきらめてあきらめて、けれどあきらめきれずに思いは今まで残って、そしてそれが今日決壊したのです。

最初はLatitudeにしようかとも思いました。モダンなデザインの万年筆。ペン先はステンレスで、けれどこれがコンプレックスなんでしょう。いずれ買い戻すといった75のペン先は18Kでした。それ以下のものは選べない。だから私は最低ラインをSonnetに定めて、それにSonnetこそは75の後継ですからね。一万五千円。高いか安いかといわれれば高いでしょう。けれど、よいものは高いのです。よいものを手にするのに、値をうんぬんするのは無粋です。値引きなし正札、百貨店にいって、ペン先をXF、F、Mで試して、また色もラックブラック、ルビーレッド、オーシャンブルーを出してもらって、さすがにシズレとかチーゼル・タータンはないっすよ。エレガントすぎます。ルビーレッドを選びました。黒はシックで美しく、けれど少々遊びにかけると思われて、青は青で青すぎた。深いルビーの赤、落ち着いて上品で美しく、私が持つには美しすぎるかも知れないとは思ったものの、けれど美に対する憧れは拭えず、赤にしたのです。

長く、どうしようかと迷い、バイト先で気の合った奴と、パーカーの一番安い万年筆、Frontierを贈りあわないかといって、結局はたせなかったことも懐かしい、そして今ようやく万年筆を手にして、嬉しいかといったら嬉しい。けれどそれは高揚するような嬉しさではなく、しみじみと、ようやくと、そういう静かな思いであります。

気負う必要はないですけど、来年、2008年は、こうしたものを持つにふさわしい、値打ちのある、価値を創出できる、そういう人間にステップアップする年にしたいと、そういう思いがしています。負けませんように、くじけませんように、低きに流れず、おもねることのありませんように。時に、このペンを手にしては、気持ちを新たにしたいものだと思っています。

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