私には心残りになるアプリケーションがあって、それは一本のゲームなんだけれど、それまで見向きもしなかったWindowsに目を向けさせることとなった、まさにキラーアプリといえるソフトでありました。けれど、時の流れというものは残酷であります。Windows 9x系向けにデザインされていたそのソフトは、NT系OS上では動作しないというのです。だから私は、そのソフトを失いたくないばっかりに、Windows 9x系の走る環境をひとつ保持していて、しかしそれはいずれ壊れてしまうでしょう。こうなったら仮想環境しかないのか — 。仮想環境なら、プラットフォームが今後どれほど変わっていったとしても、旧い環境を残すことができる。私のように、レガシーなものに心を残し続ける人間にとって、仮想環境というものは極めて魅力的に映る、そんな風に思います。
そして、ここにもうひとつ問題があって、私は正規のWindows 9x系を持っていないのです。Win 95のCompanionは持っています。Win 98のレストアCDも持っています。もし今後Windows 9x系の環境を持つというなら、Companion版の出番でしょう。けれど、それをするとライセンス違反になりますわな。そうした理由から私はWindows 9x系の環境構築には乗り気でなく、MicrosoftはWindows 95を売ってくれたらいいのに。それこそ、ネットワーク機能をオミットしたものでもいいから売ってくれたらいいのになんて思い続けています。
しかし、こんな状況を打破できる可能性が示されたのですよ。仮想環境は仮想環境でも、互換レイヤーといわれる類いのアプリケーション。CrossOverです。Mac OS X上で、Windows APIを模倣するアプリケーションなんですが、もともとはUNIX向けに開発されていたWineというWin32互換レイヤーが、Mac OS X向けにDarwineとして分派、それが商用アプリとして整備されたという流れです。しかしなにが大きかったといっても、MacintoshのCPUがPPCからIntelに変わったということでしょう。PPC時代にはCPUのエミュレートが必要だったところが、今やネイティブコードが通用します。ああ、これはもしかしたらいけるかも知らんね。そう思った私は、CrossOverを試してみるべく、体験版をダウンロードしてみたのでした。
CrossOver Mac、バージョンは6.2.1です。インストールはバンドルをアプリケーションフォルダにコピーするだけと極めて簡単。ボトルと呼ばれる単位で環境を管理できるのですが、その環境というのがWindows 98、2000、XPでありまして、実に期待させてくれるではありませんか。私は矢も盾もたまらず、Windows 98ボトルを作成、インストールCD-ROMをマウントしインストーラを叩けば、おお、セットアップ画面が出るではないですか! やったか!? インストールするフォルダを選択し、次へ、次へと進んでいって、そして、そして、DDE Timeoutの発生とともに私の野望は潰えたのでした。おーまい、なんてこったい!
残念でした。正直、私はこれにかけていましたからね。けど、私はへこたれませんでした。まだ試してみたいことがあったのです。『らぶデス』のDVDを準備、マウント、そしてインストールすれば、時間こそはべらぼうにかかったものの、無事インストールが完了するではありませんか。おお、これはいったか。この、強烈に重い3Dソフトははたして動くのか!? 起動してみれば、お、音しか出ないよ! 画面は真っ白なままBGMだけが再生されて、ああ、これはさすがに駄目だよな。
次に試したのが、『白詰草話』。さすがにこれは大丈夫だろうと期待しつつインストールを終え、そして起動。やった、画面が出た。音も絵も出ている。動作もちゃんとするようです。なのでゲームをスタート。とりあえず状況を確認しようと、32倍速でぶっ飛ばしたら、途中で音もなく終了してしまいました。あれー? 再度起動して、ちょうどストールしたあたりでスキップを等倍にしたところ、やっぱり終了。ああ、これはあれだ。ムービーの再生で落ちるんだね。試しにムービーを再生しない設定で実行すれば、やっぱりそうです、問題なく先へ先へと進むことができて、吹き出しまわりの表示にこそ不備はありますが、ゲームを進めることに関しては問題なく、セーブもできればロードもできる。
というわけで、動作したところの証拠です。
CrossOverは完璧というにはまだまだ足りないところもあるけれど、ソフトによっては充分に使い物になりそうだと思わせる可能性を秘めていて、実に面白そうです。けど、私にはちょっと残念でした。なので、まだこの先も理想の環境を求めてさまよう旅は続きそうです。
引用
- 白詰草話,04-11
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