2007年12月5日水曜日

ふたりのヒメゴト

 山田まりおは『ママさん』という漫画を描いているのですが、いつもながらの山田まりおらしさがあり、そして私の知らなかった側面も見られて、読んでよかったなあ、そんなことを思っていました。さて、『ママさん』は血の繋がらない母親に心揺れる高校生が主人公。まさに王道じゃないかなんていっていたら、山田まりおは同シチュエーションの王道漫画を他にも描いていたんです。それは『ふたりのヒメゴト』。血の繋がらない父親に心揺れる高校生が主人公の漫画であります。

けど、心揺れるというのとはちょっと違うと思う。むしろ正しくは欲情するだわな。あ、断っておきますが、義理の父親と娘ではなくて、息子です。男同士なのに、義理とはいえ親子なのに、欲望が止められない男子高校生斎が主人公。非常にナイーブで中性的な父に、ちょっとワイルドで強引な息子が迫る。その時に思い出された真実というのが、ちょっとよかったです。血が繋がっているとかいないとかに関係なく、息子に対しよき父であろうとする柾臣と、そんな父にあらぬ思いを抱き、なし崩しに関係に持ち込む息子。これもまた王道であるんでしょうなあ。父の天然さにいらつきを覚えることもあれど、愛がすべてをうやむやに飲み込んでしまう。この、愛でもってうやむやにして突入というのは、BL(になるの? 成人の方が多いんだけど)における山田まりおの勝利形なのかも知れません。

『ふたりのヒメゴト』に収録されているのは、前述の義理の親子もの(シリーズ)、没落した傲慢な坊ちゃんと社長に上り詰めたクール&タフな苦労人の逆転カップルもの(シリーズ)、そして読み切りがふたつですね。攻めは精悍な黒髪、自信家にして強引に迫るタフな連中ぞろいで、受けは天然であったり優柔不断で弱気であったり、皆どことなく屈折しながらも、結局は強引な愛の高まりを受け入れてしまうというのが基本です。けど、その屈折の原因となるものがそれぞれ違っているから、続けて読んでもワンパターンにはならず、新たな気持ちで臨むことができます。またタッチにしても、『結婚記念日』みたいにギャグコメディ寄りから『蝉時雨が聞こえる』のシリアス一辺倒まで幅があるから、飽きません。実際『結婚記念日』は落ちに笑ってしまったし、『蝉時雨』はその屈折の原因も含めてなんだか染みるものがあり、情緒深く、非常に好みです。多彩な山田まりおの一側面、四コマではついぞ隠れてしまいがちな部分は、こうしたジャンルにおいて開花しているように感じます。

で、ちょっと余談。山田まりおの受け攻めは、四コマにおいても同じ構図が見られて、幕の内攻め(いや、たまにこの人妙に精悍な攻め顔になるのよ)、由未カオル受け、天河攻め、諭吉受け、そして若葉が受けならやっぱり市川さんも受けなのかね? けど、こうして一覧してみると、いかにも駄目そうなのが受けに並んで、もしかしたらヘタレ受けってやつなんでしょうか? え、違う? 残念ながら私はBL方面には明るくないので、今度友人に聞いてみようと思います。

  • 山田まりお『ふたりのヒメゴト』(アクアコミックス) 東京:オークラ出版,2006年。

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