2007年11月10日土曜日

ママさん

 以前山田まりおで書いたとき、水島さんからくらオリの『ママさん』面白いですよと教えてもらいまして、ちょっとずっと気にしてきました。そして、先月、ついに『ママさん』が単行本となって発売されて、買ってみて、読んでみて、確かに面白い。これまで読んできた山田まりおとはちょっと違うのだけれども、面白さの核にあるものはやっぱり山田まりおだとうなずけるもので、らしさを維持しながらも新鮮な見せ方をしてくれるというところに、この人の実力というものを感じたように思います。

『ママさん』は、血の繋がらない母と息子を描いて、若くて美しい母、そしてそんな母にほのかな思いを抱く息子。ある種、王道といえるシチュエーションであると思います。私がこの漫画に新しい山田まりおを感じたとすれば、おそらくはこの王道でしょう。クールでちょっとシリアスな色を見せる息子アキト、彼を見ている限り、この漫画がいつもの山田まりおらしさに染まるようには思えなくて、むしろ彼の迷いのしっとりと切なく甘美であることに私の興味は傾きを見せるのです。とはいえ、やっぱりこれは山田まりおだから、そうした傾きばかりに浸るというのも無理な話で、やってくれるわあと笑いっぱなしになることも少なくない。こういう多面的な読み方ができるというのは、『ママさん』の魅力であると思います。

やっぱり山田まりおだと感じる、その要素とはなんであるのか — 。それは、的確な変な人表現であると思います。基本的に山田まりおの描く人物は変な人であるとか、迷惑な人であるとか、そんなんばっかりなんですが、そうした持ち味はこの漫画にも健在なんです。ヒロイン和美さんの常軌を逸したマイペースもそうといえるかも知れませんが、そんなのはまだまだ序の口で、極め付けはお隣でありアキトの同級生でもある若葉の母親であるといっていいかと思います。基本的に、彼女を出すと落ちるんです。それくらいの強烈さを持っている、雰囲気は実に昭和、世に言うおばさんなるものを濃縮したようなキャラクター、こういっちゃあなんですが、思春期の少年が自分の母親に感じる恥ずかしさっていうんですか? そういうのを如実に感じさせてちょっと見てていたたまれない。ああ、山田まりおはわかってるわー、そういう思いににやりとしますね。

変わった人はまだまだ出てきて、それら一人一人はちょっとあり得ないくらいの変さなのですが、そのありえないというのは程度の問題で、変さの質においては、ああ、こういう人っているよねと思わせるに足るリアルさがあるんです。そんなやつおらへんで — 、けどああいうタイプの人はいるよね……、みたいな感じ。性的なものを徹底的に忌避しようとする玉美だって、あそこまでじゃないけど実際にいる。若葉の母親や小池の母親にしても、ああいう人はいる。玉美の息子に関しては確実にいる……。若葉や小池の母親は、息子娘の目から見た母親、つまりさっきもいった思春期の少年少女特有の自分の母親への視線がフィルターとなって、常よりもなお過剰な表現になっているってだけの話。そうした表現の巧みさが、山田まりおの持ち味を決定づけているのだと思います。

変な人表現は主に母親たちが担当しているからか、高校生サイドはわりと普通の展開を見せたりして、小池あかりの恋心とその作為なんてのはさりげなく効いていていい感じです。かと思えば、若葉なんかはひどい目に遭わされっぱなしで、けど彼の宿命というべきか、ああいうネタは私大好きです。玉美さんと一緒に、とことんまで突き抜けていただきたいものだと思っています。そして、巻末特別編にはやられました。ずるいよ、山田まりお。なんか、じんときちゃったじゃんか。

私はこの人のこと、天才肌のギャグ作家だと思っていたんですが、とんでもない、多彩な表現力、多面的な魅力を持った、まさしく地力のある人であるんですね。恐れ入る次第です。

蛇足

血の繋がらない母と息子 — 、まさに王道、なんていっていましたが、山田まりおは、血の繋がらない父と息子 — 、まさに王道、な漫画も書いているんですね。山田まりお、実に多彩!

こ、こっちもちょっと読んでみようかなあ。

  • 山田まりお『ママさん』第1巻 (バンブー・コミックス) 東京:竹書房,2007年。
  • 以下続刊

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

気に入っていただけたようで何よりです。
推薦者としては胸をなでおろす思いです。
山田まりおにしては、ほんわか柔らか成分多目ですよね。
特別編は、私もぐっと来ました。
私も、山田まりおは地力の高い作家だと思います。

matsuyuki さんのコメント...

今連載されている四コマの中では、一番バランスのとれたものではないかと思っています。しかも、折りになんだかしんみりとさせられて、さらには特別編での描写。ええ、いい漫画でありましたよ。知らせてくださったこと、感謝します。