『あさぎちゃんクライシス!』は、エキセントリックな作者が描いた、エキセントリックな漫画です。もちろん登場人物も皆そこはかとなくエキセントリックで、でもあさぎちゃんは最初それほど変わり者でもなかったはずで……、感化されたか。この漫画の主人公は、タイトルにもあるようにあさぎちゃんなんだけれど、存在感というか、キャラクターの特異さでいうと、やっぱり河野先生が一番主人公らしいのではないかと、そんなことを思ってしまうのです。河野先生、大学生であさぎちゃんの家庭教師。男前なんだそうだが、持ち前のエキセントリックさが全部ぶち壊していると思います。趣味は東洋医学、鍼灸の知識を振り回しことあるごとに実践しようとする危ない人なんだけれども、この漫画を読んでいる限りでは、鍼灸の実践を口実にあさぎちゃんにセクハラするのが趣味なんではないかという気が……。『あさぎちゃんクライシス!』とは、そういう漫画であります。
といいきっちゃったら、ちょっと嘘になるんですが、だってあさぎちゃんは河野先生にツボ押されるの嫌がってないから、セクハラにはならない — 、じゃなくて、別にこの漫画はそうしたセクハラめいた、といったら語弊があるけど、そういう要素を売りにしているわけではないんです。じゃあなにが売りなのか。エキセントリックでしょう。河野先生のエキセントリックがまず最初にあって、先生に振り回されるあさぎちゃんを楽しむというのがまずひとつ。それが次第に、あさぎちゃんとその友達二人との、微妙にはずれていく会話の模様を楽しみ、また河野先生とその友人二人との、微妙に暴走しながらおかしくなっていく会話を楽しむ。そうなんですね。やっぱりエキセントリックなのです。エキセントリックな三人組は次第に接近して、今では互いに混ざり合いながら、また違ったおかしさを醸し出して、中学生(途中高校に進学します)と大学生の、ややもすればぐだぐだになってしまうやりとり、そこに面白さがあるんだと思うんです。だから、多分徹夜明けとかに読んだら、めちゃくちゃ面白いんじゃないだろうか。私はまだ試したことないけど、そんな気が非常にします。
けれど、『あさぎちゃん』のおかしさって、多分に作為的。彼らのエキセントリックさっていうのは、エキセントリックを演出しているところが感じられて、そういう意味においては、この漫画にはいわゆる天然はいないのだと思うんです。まあ、天然だから体にいい、じゃなくて、面白いっていうわけでもないのは周知の通り。特に弓長九天に関してはそうで、『さゆリン』でもそうでした。どこをどうとっても冗談なんだけれど、どこまで本気だかわからないといった、曖昧な領域に生じるおかしみ。『さゆリン』ではそうした要素はヒロインであるさゆりに発していたのですが、『あさぎちゃん』では登場人物がそれぞれに得意な曖昧領域をもって、せめぎあっているのだと思います。突っ込みを入れようとなにをしようと、彼らのマイペースのりは止まらない。対話が成立しそうでしない、かといって破綻するでなくぎりぎり維持されている、そういうグレーゾーンに迷い込んで面白がれる素養のある人には、きっとこのうえなく楽しい漫画であるのではないかと思います。
さて、のっけから散々エキセントリックといいまくっていますが、この漫画においてもっともエキセントリックなのは、疑いなくあさぎの母であると思うのですが……、どうでしょう。これに関しては、おそらく皆様ご同意くださるのではないかと思います。
- 弓長九天『あさぎちゃんクライシス!』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2007年。
- 以下続刊
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