2004年10月10日日曜日

不思議の国のアリス / 鏡の国のアリス

 児童文学の古典で最も広く読まれ最も愛されているのは、おそらく『不思議の国のアリス』です。日本だけではありません。本国イギリスはもちろん、その他各地においても高い人気を誇っています。

アリスの翻訳の多様さ、パロディのバリエーションはすごいですよ。ピチャンチャチャチャラ語なんて知ってますか? アボリジニの言葉なのですが、こうした少数言語にまでアリスは訳されてるんですね。もちろんエスペラント版なんてのは当然のようにありますし、他にもグレッグ式速記版とか、アリスの世界は非常に多様な広がりを見せているのです。

それほどに愛されているアリスですが、その秘密は多少不気味な世界がもつ魅力にあるといってもいいのではないでしょうか。首を刎ねよが口癖の女王や、狂った帽子屋、三月兎などの強烈なキャラクター群。ルイス・キャロルの創造した奇妙な生物ジャバウォッキーというのも印象に残るでしょうか。フラミンゴとハリネズミを使ったクロッケー、小動物と繰り広げる堂々めぐりのレースなどといったシチュエーションの面白さも忘れることはできないでしょう。

しかし、このアリスの世界に山と盛り込まれた謎については意外と知られていないのですね。

アリスの世界に取りつかれた諸氏諸嬢には、マーチン・ガードナー(パズル作家)により注釈が付されたアリス本をお勧めしたい。これらの本には、アリスの世界に含まれた謎を暴かんとする有志によって考察検証された註が盛りだくさんに含まれているのですよ。今までなんとなくよく分からないままにしていたことも、こういう故事、事象、お約束に基づいていたのかと、はっとする解が見つかること請け合いです。むしろ、そこまでルイス・キャロルは考えてなかっただろうというところまでの掘り下げに感嘆します。

件の帽子屋が狂ってるのは、英語に「帽子屋のように気が狂っている(mad as a hatter)」という成句があるからですが、この本によれば、当時帽子屋は本当に気が狂ったのだそうです! 首の延びたアリスはクライストチャーチ学寮(ハリー・ポッターの舞台のモデルでもあるそうですね)の暖炉飾りがモチーフであるとか、チェシャ猫の座っている木は存在しているだとか、鏡の国に出てくるシープ・ショップ(羊のおばあさんの店)も実際にあって、今ではアリス・ショップと名を変えて営業中です、などなど。知らなかったこと、知るとびっくりするようなことを、たくさん見付けられることと思います。

一時期日本ではやった謎本みたいに思われるかも知れませんが、雰囲気はより学術的で真面目で、けどそれがおかしいんですね。こうしたなぞに挑戦している人たちはもちろん立派な大人で、こうした大人を魅了してしまうのがアリスの世界であったのでしょう。世界中で読まれているというのも当然と、そんな気にさせてくれますよ。

絶版でしょうか? だとしたら非常に残念なことです。

  • ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』ジョン・テニエル画,マーチン・ガードナー注,石川澄子訳 東京:東京図書,1980年。
  • ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』ジョン・テニエル画,マーチン・ガードナー注,高山宏訳 東京:東京図書,1980年。
  • ルイス・キャロル『新注不思議の国のアリス』ピーター・ニューエル画,マーティン・ガードナー注,高山宏訳 東京:東京図書,1994年。
  • ルイス・キャロル『新注鏡の国のアリス』ピーター・ニューエル画,マーティン・ガードナー注,高山宏訳 東京:東京図書,1994年。

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