私はこの物語に出会って、心からよかったと思いました。原爆にまつわる物語であり、悲しかったり切なかったり、やり切れなかったり、けれど私はやはりこの物語は深く強く、そして美しいものだと思うのです。常に涙なしでは読めない、けれど多くの人に読んでもらいたい物語であると強く強く思っています。
物語は、原爆の落とされたあの時から十年経った昭和三十年、平野皆実をめぐるものが第一部。そして皆実の弟の子らの時代 — それは私たちの時代といってよいかもしれません — の物語が第二部。私は雑誌で第一部を読み涙を絞り、第二部前半でもやはり切なくなって、ですが今回出版されたこの本を通して読んで、すくわれる思いもしたのです。
お願いがあります。できればこの本を多くの人に読んでもらいたいと思うとはさっきもいいましたが、それは単なる願望ではなくって、つまりはこの記事を読んだあなたにもこの本を手にして欲しいのです。
記事末尾のリンクからアマゾンで購入すると私が得してしまうので、アマゾンで買うときはブックマークかなにか経由でいってもらうとして、でもできれば一般の書店で買って欲しいと思います。かなり品ぞろえのいい書店でないと置かれていないと思いますが、できればそうして欲しいのです。
この本は双葉社の大英断で出版されたもので、きっと売れないと判断されたのでしょう、ページ数の割に高めの値段がついています。ですが物語の質は折り紙付きです。本といわずなんといわず、あらゆるものは質で計られるべきで、量で判断するものではないと私は日々思っています。
それでも買えないという人は、図書館にリクエストして欲しいのです。リクエストを出すと大抵所蔵されます。そうすれば多くの人の目に触れる可能性が高くなります。
この本に、思想的などうこうというものはありません。残虐な描写やなにかもありません。あるのは淡々と描かれた美しい物語と深い感情です。
私はこうした良書が、一般に売れないという理由でただただ埋もれていくのが悔しいのです。気付けば絶版していて、お勧めしようにもお勧めできないというようなことになるのが嫌なのです。そうして知られないために売れず、売れないために出版されず(なんのために再販制があるのか)、多くの良書が日の目を見ないという現実があるのが悲しいのです。
切ない思いはさせるかも知れませんが、どうぞお手に取っていただきますよう、お願いいたします。
- こうの史代『夕凪の街 桜の国』東京:双葉社,2004年。
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