2004年10月12日火曜日

おとぎのアリス

 アリスを題材にとった絵本はごまんとありますが、残念ながらそのほとんどはお寒いかぎりの代物で、はっきりいいましてアリスの改作もの — 絵本物語問わず — にろくなものがあったためしがありません。アリスの世界は言葉遊びや理屈の遊びに支えられて、それこそが魅力だというのに、改作ものは大抵その魅力の部分をこそげとって、つまらない、愚にも付かないところにとどまってしまっています。ディズニーのアニメも然りです。

けれど『おとぎの“アリス”』はちょっと違います。というのも、これはルイス・キャロル自身が小さな子供向けに書き改めたものだからでして、いうならば正統のアリスの系譜に列なるものです。

とはいうものの、私はこれを買いそこねたんですね。今買うとなれば新書館から出ている『子供部屋のアリス』で、しかもこれも新版として昨年復刊されたところのようで、早速買いにいかなくちゃいけません。けど、私の記憶が確かならば、現在入手できない『おとぎの“アリス”』のほうがオリジナルの『The Nursery “Alice”』に忠実で、それゆえ評価が高かったはずです。

いや、本当にオリジナルに忠実を求めるのなら、オリジナルの洋書を買えよって話なんですけどね(けどそれも絶版ってのはどうしたもんだろう)。

『不思議の国のアリス』といえば思い出されるイラストは、当時人気の挿し絵画家ジョン・テニエルによって描かれたもので、あのちょっと硬質の木版画ですね。『おとぎの“アリス”』ではその絵に彩色が施されていまして、ちゃんと絵本として楽しめるように作られています。

ルイス・キャロルが労働者階級の女の子と知りあって、その子にアリスの本を贈りたいのだが、と友人に相談した逸話が残っています。労働者階級の子供は学力に劣るから絵本版のアリスのほうがいいだろうかという、ちょっと失礼な話ではあるんですが、当時人気のあったアリス物語を、文字の本に慣れた年代の子らだけでなく、もっと小さな子供にも楽しめるようにしたというのは、子供好きだったルイス・キャロルの配慮だったかも知れませんね。

  • ルイス・キャロル『子供部屋のアリス[新版]』ジョン・テニエル絵,高橋康也,高橋迪共訳 東京:新書館,2003年。
  • ルイス・キャロル『おとぎの“アリス” オリジナル版』ジョン・テニエル絵,高山宏訳 (ほるぷクラシック絵本)東京:ほるぷ出版,1986年。
  • ルイス・キャロル『おとぎの“アリス”』ジョン・テニエル絵,高山宏訳 (ほるぷクラシック絵本)東京:ほるぷ出版,1986年。

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