2008年1月15日火曜日

だめよめにっき

 漫画によって画風、作風などを使い分ける人ってありますが、私屋カヲルという人もそうしたタイプの漫画家であるのかも知れません。というのもですね、この人の代表作『こどものじかん』と『だめよめにっき』、ずいぶんと雰囲気を違えているのです。ませた小学生が若い教員を翻弄する『こどものじかん』においては、過激といってもいいものか、扇情的な表現も多分に交え、そして時にはシリアスな顔もして見せるという、いわば動的な表現がなされていると感じたものですが、対して『だめよめにっき』はというと、台詞を極力減らして、シンプルにシンプルにネタを絞り込もうとするかの、いうならば静的でしょうかね、そうした見せ方が選択されています。

そして、絵柄も違っています。四コマ、小さな枠に全身がおさまる、非常によくデフォルメされたキャラクター。『こどものじかん』の読者にとっては、これもまた意外に感じられるのではないかと思うのですが、しかし私には私屋カヲルは『だめよめにっき』の人だったから、『こどものじかん』をはじめて読んだ時には、へーっ、こんな作風の人だったんだと驚いて、でもそれは表現の幅の広さを知ったといった感じの驚き。どちらの漫画にしても、表現のスタイルこそ違えど、キャラクターの魅力をよく引きだして、漫画の面白さを膨らませているなと思える出来であったものでしたから、むしろ好感を持ったものでした。

『だめよめにっき』は、ヨメとオットの新婚の夫婦生活を描く四コマ漫画であります。タイトルにだめよめとあるように、主役はヨメ。けどいったいどこが駄目なんだろう? 家事はしっかりしてるし、むしろスーパーなくらいであるといえる。となると、駄目なのは人としてか。オットを好きで好きでしかたなくて、その気持ちどころか、行動をも止められなくなっているヨメです。その行動、愛情の表現はかなりアグレッシブでラディカルで、けれどそれも可愛く見えるのはデフォルメされたキャラクターのためなのか。いや、オットにラブラブであることがよくよく伝わる、その表現があるがゆえなんだろうなと思います。

初期においては、登場人物はヨメとオットにかぎられ、しかもヨメの台詞はほとんどないという、サイレント的な味わいがよくできていて、また楽しかったものでした。ネタはことごとくシンプル、言葉を使わず絵でうまく表現して、それが面白いのです。素直にうまいなあと思わせる漫画でした。絵にしても、構成にしても、どれもがバランスよくまとめられている漫画でありました。

そして現在は、ヨメ、オットに続く第二の夫婦が登場、ツマコさんとダンナなのですが、この頃からヨメは普通に話すようになります。サイレント風の味は薄れましたね。けど、面白さはまた違った雰囲気を持って広がって、これはこれで面白いんです。しゃべるようになってよくわかる、ヨメのシビアな一面。そうかあ、オットにはラブラブだけども、他の人には割とひどいこというんだこの人は、というのがよくわかって、さらに好きになったというのはどうでもいい話。けれど、ひどい人担当はむしろツマコさんで、女同士の仲むつまじさに潜むシビアな丁々発止、これが実によくってですね、性格の違うふたりの女、その個性をうまく使って表現を広げる。普通っぽさは増したけれど、悪くないなと思わせる、そういううまさは健在です。

『だめよめにっき』は、雑誌センターでオールカラーであるのが売りといいますか、そのため単行本もオールカラーであります。正直これは嬉しかったです。連載時のてかっとした印刷とは違って、マットな質感は温かみを増して、これはこれでいいものです。そして、カラーのカットも数点追加されていて、雰囲気あるリアル志向のものと、一コマにおかしみの凝縮されたコミカルなもの、これもまた嬉しく、いい単行本だ、そんな感想を持ちました。

  • 私屋カヲル『だめよめにっき』(アクションコミックス) 東京:双葉社,2008年。
  • 以下続刊

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